第157話、21号遺跡
ソウヤとセイジは、アイテムボックス内を出て、ミストたちが向かったフリー遺跡である21号遺跡へと向かった。
ライヤーとフィーアは、飛空艇の状態の確認をしてもらう。アイテムボックスの管理自体は、ソウヤが許可しないと中のものを持ち出したりはできないので、放っておいても盗まれるという事は起きない。
平原地帯にらせん状の下り坂があって、21号遺跡はその先の穴だった。
モンスターが出る場所なので、どこかの組織が場所を占有していることはない。通常のダンジョンと同じく、自己責任の上で誰でも入ることができた。
中からのモンスターに対する備えなのか、丸太で組んだ盾のようなものが、三カ所ほど入り口の近くにあった。正直、何の役に立つのかわからないが。
「準備はいいか?」
ソウヤが確認すれば、セイジは頷いた。カンテラ型魔石照明を手に、いざ中へ。
洞窟かと思ったが、中はしっかり遺跡のようで、朽ちて崩れかけた建物の壁や、土砂に混じって切り出された石材の床があった。
……ついでに魔獣の声も遠くで聞こえた。
メインの通路と思われる正面を道なりに進む。
「ソウヤさん、大丈夫でしょうか?」
セイジが周囲の建物跡らしい壁の窓を見ながら聞いた。
「ミストさんたちが探索していたら、追い抜いたりすれ違う可能性があるかも……」
「確かに、オレらだけならな。心配ない、ミストのほうがオレたちが近づいたら反応する。あいつ、感覚が常人のそれじゃないから」
「それなら安心です」
――オレだって、何の考えもなしに動いているわけじゃないんだよ、セイジ君。
道なりにドンドン下っていく。帰りは全部登りになる。ソウヤは、ひとり苦笑した。
邪魔なダンジョンコウモリが問答無用で襲いかかってきた。たぶん先行した冒険者とひと騒動やらかして、気がたっていたのだろう。
しかし襲撃したからにはソウヤは手を抜くはずもなく、返り討ちにした。カンテラ持ちながらだとやりづらいが、セイジが魔法カードで照明弾を打ち上げたおかげで、多少の余裕ができた。
損害もなく、さらに奥へ。やがて先行していた冒険者――ミストたちと合流した。
「おっそーい」
ミストの第一声はそれだった。
広い空洞だった。そして断崖のごとく切り立った壁があって、そこに文字や獣、人の頭などが彫り込まれていた。
古代文明時代の遺跡の一部だろう。しかし、ソウヤはその手の知識がほとんどないので、意味するところはわからない。
ソウヤは、しげしげと壁面を見ながら、ミストたちのもとへ。
「無事そうだな」
「正直、歯ごたえがなさ過ぎね」
ミストは槍を肩に担いだまま、顔をしかめた。
「たぶん、もっと奥に行かないと駄目ね」
その言葉に、ガルが頷いた。
「この辺りは、他にも入った者が多い。トラップの類いはなく、あっても解除されていた」
「そうなると、ここらじゃお宝はなさそうだな」
ソウヤは肩をすくめる。ジンが壁の彫り込みを眺める。
「何をお宝とするかで、判断の分かれるところだろうな。考古学者にとっては、この壁も一種の宝だろう。……もっとも、私たちは考古学者ではないから、その価値はわからないがね」
老魔術師は、視線をソフィアへと向けた。彼女は先ほどから目を閉じ、何やら意識を集中しているようだった。
「魔力の流れはつかめたかね?」
「……風のようなものを感じるわ、マスター」
ソフィアは目を閉じたまま、何かを探るように顔を動かした。
「わたしたち以外に、人の気配は……なさそう」
「ワタシもそう思うわ」
ミストは、その空洞の奥を凝視している。
「もしお宝を探すなら、もっと先にいかないとね」
行きましょう、と黒髪の戦乙女は促した。ガルが、ソウヤに顔を向けて『どうする?』と目で確認してくる。
見たところ、疲れた様子もないので、「行こう」と探索続行を告げる。トラップなどに詳しいガルが、先頭のミストに追いつく中、ソウヤたちは、その後をゆっくりとついていく。
ジンが近くにきた。
「そっちの遺跡はどうだった? 何かあったかね?」
「ああ、天空人のお宝を手に入れた」
「……セイジ、今のソウヤの発言は本当なのか?」
冗談とでも思われたのか、ソウヤの答えについて、ジンはセイジに確認する。そのセイジは苦笑する。
「事実です」
「それは凄い。しかし君たちが行った遺跡は、他の誰かが所有している場所じゃなかったのか?」
「色々あってな」
ソウヤが苦笑すると、ジンは穏やかに言った。
「言うほど色々あったとも思えないがね。案外、事実とはシンプルなものだ。話してみなさい」
どうせ暇だろう、ということで警戒はしつつも、ミストにガル、そしてソフィアがガッツリ索敵をしているのに任せて、一部始終を説明する。
ライヤーとフィーアというコンビに会って、その借金を立て替えたこと。隠されていた遺跡の宝物庫を発見したこと。最後に飛空艇をいじれるメンツが見つかったので、銀の翼商会に引き入れたことを告げた。
「事後報告だが、メンバーが増えた」
「飛空艇をいじれる人員は、どの道、雇うか引き入れるつもりだったのだろう? リーダーは君だ。問題はあるまい」
ジンは支持してくれた。
さて、遺跡である。地下洞窟にしては、かなり深いところまで続いているようだった。
途中、かなり狭い場所もあったが、人ひとりが通るには不都合はなく、そのまま奥へ。
「遺跡って言うから、もっと短いと思っていたんだけどー」
少し疲れたか、ソフィアが愚痴っぽく言った。セイジが高い天井を見上げた。
「もう完全に洞窟って感じだよね」
「もしかして、横穴とか入っちまったパターンかこれ」
ソウヤが言えば、ジンは顎髭を撫でた。
「遺跡ではなく、遺跡と繋がっていた洞窟かもしれないということかね? だとしたら遺跡に出るモンスターは、そこから入ってきていたのかもしれないな」
「ところで――」
ソウヤは先導するミストとガルの背中を見やる。
「さっき分かれ道があったけど、こっちの道で大丈夫なのか?」
特に迷う素振りもなく、ミストが道を決めているようだが――
「こっちにね、気配を感じるのよ」
ミストが振り返ると、ニヤリと笑った。
「何か強い魔力の波動ってやつを」




