第12話、同業者と話してみた
浮遊バイクは地面にタイヤがつかなくても走れる。
ソウヤは街道に沿いつつも、その街道脇をバイクで走った。旅人や冒険者だろう人間と何度かすれ違う。
皆、一様に驚き、ある者は武器を抜いて構えていたが、ちょっと避けることで、問答をすることなく、通過した。
――珍しいのはわかるけど、面倒は御免だー。
どうせ追いかけるなんて不可能。さっさと通り抜けて、先を急ぐ。
――いやぁ、快調快調! やっぱ、バイク速いわ。
普通なら一日と少しかかる王都への道も、一時間とかからずに走破してしまう。
「ねえ! ソウヤ!」
ソウヤの体に密着しているミストが、風に負けないように声を張り上げた。
「これ、どう見ても、目立ってるわよ!」
「ああっ!」
それはソウヤも薄々気づいていた。街道で人とすれ違ったといったが、その頻度が増えていた。
それもそのはず、人の往来が多い王都近辺である。旅人や役人、隊商なども増える。
「あまりにバイクの乗り心地がいいからさぁ! つい、降り時を逃しちまった!」
「このウッカリさんっ!」
ミストが茶目っ気たっぷりに人差し指で、ソウヤの後頭部を小突いた。
てへっ――久しぶりのバイクなので興奮してしまったのだ。
「でもまあ、どうせ遅かれ早かれ、話題になっていたと思う!」
「開き直ったわね!」
「事実でしょーが!」
とか言っている間に、前方に王都が見えてきた。
メーヴェリングのように城壁で囲まれた都市だが、その規模は比較にならないほど大きい。
高くそびえる城壁の向こうに、小さく王城が見え、それだけでもかなりの大きさなのがわかる。
エンネア王国王都ポレリアだ。
「それで、王都へは何しにいくのよ、ソウヤ!」
「えー、いま聞くのー? 王都の商業ギルド、それがダメなら冒険者ギルドだ。身分証明になるものが欲しいんだ」
地方でも登録はできるが、行商として移動することが多いだろうから、王都のギルド証は、多少ハッタリにも使えるんじゃないか、という考え。
身分証は、色々なところで提示が求められるだろうし、メーヴェリングの時みたく、割り増しで金を取られるのも面倒だ。
とはいえ、ソウヤは商業ギルドについて、実はよくわかっていない。商売を始めるにしろ、地元の商人たちがいる手前、顔を通しておかないとよくないだろうなというくらいはわかる。
「本格的に商売始めるんだから、そのあたり勉強しないとな」
「えー、何ですってー?」
「独り言だ!」
浮遊バイクは王都の手前まで進む。そして案の定というか、王都への入るための審査があって、そこの列に並ぶことになる。
「……これってどれくらい待たされるの?」
ミストが長い列を見やり、ウンザリしたような顔になった。
「さあね、結構、待つんじゃないか」
勇者時代は、列に並ばなくてもすぐ通れた。だから、こうして普通に並ぶとどれくらい時間がかかるのか、ソウヤはわからなかった。
ソウヤたちの後ろに、列が出来ていく。と、すぐ後ろにきた三人組に声をかけられる。
「なあ、あんた、さっき変な乗り物に乗っていたよな?」
大きな鞄を背負った三十代の男と、護衛と思われる軽装戦士が二人という組み合わせだ。商人と冒険者かな、とソウヤは目星をつける。冒険者の一人は四十代くらいで髭面の戦士。もう一人は二十代くらいの細身の弓使いだった。
「ああ、そうだが?」
「やっぱり! なあ、あの乗り物はなんだ?」
浮遊バイクの目撃者は、好奇心旺盛だった。無理もないとソウヤは思う。
自分が勇者であることは隠すが、それ以外のことは比較的オープンにしようとするソウヤである。
かつての勇者が乗っていたバイクという乗り物であるということを簡単に説明した。すると男――カルファと名乗った商人は言った。
「それで、そのバイクを買いたいっていったら幾らになるんだ?」
「悪いな、カルファさんよ。オレはこいつを売るつもりはないんだ。こんなナリだが、これでも行商をしようと思っていてな、その足に使うんだ」
「そうかぁ、行商かぁ……。だがそこをなんとか売ってはくれんか?」
「いくら積まれたって駄目だって。……もしあんたが、エクスポーションとかエリクサーでも持っているっていうなら、話は別だけど」
どんな怪我や病気も立ち所に治してしまう秘薬を例に出せば。カルファは苦笑した。
「さすがにそれは持っていないなぁ」
「あと、トドメ刺すようで悪いけど、これ魔道具だから、魔法が使えるのが最低条件で、しかもオレにしか使えないんだわ。もしオレが手放しても動かせないんだよ」
「……あー、それは、残念だ」
眉を八の字に下げて、カルファは残念がった。ソウヤは詳しく聞かれる前に話を変える。
「どころでカルファさん、あんた商人なんだよな? ちょっと話聞かせてもらっていい?」
行商を本格的にやるにあたって、商業ギルドに入るためには何が必要か。たぶん金がいるのだろうが、どれくらいかかるのか、などなど聞いてみる。
「あんた、王都に家があるのかい?」
「いや、ないよ」
「じゃあ、定住するとか家を建てる予定は?」
「行商だからなぁ。しばらくは家とかはないな」
「じゃあ、無理だ。王都の商業ギルドには入れないよ」
「え、そうなの?」
カルファの言うには、その町――この場合は王都に定住しないとギルドには入れないらしい。そもそも商業ギルドというのは、その町の商人たちの集まるギルドだから、よそ者用にはできていないのだ。
「まあ、行商にはあまり関係ないさ。町に入る時に通行税とか、町で店を開く時のショバ代とか払えば、商売はできるしな」
それに――とカルファは笑った。
「こういう町の外とか、地方の集落はギルドとか関係ない」
「なるほど」
さすが同業の先輩。ためになる。
ソウヤも、前々から商売を考えていたが、きちんと専門の人からじっくり聞く機会がなかったから、とてもありがたかった。
「そういや、カルファさんは、何を扱ってるんだい?」
「マクトミの実だな」
そう言うと、彼は背負っていたバックパックから革袋を出して、その実をひとつつまんだ。ピンポン玉くらいの大きさの赤い果実だった。
「食べたことは?」
「さあ、どうかな……。あんま見た覚えがない」
「かもな。これが自生している森ってのが特殊でな。割と高級品扱いなんだ」
希少価値が高めってことか――ソウヤは相好を崩した。ちょっと試食してみたい。
「へえ、いいね。ちなみに、金貨一枚で、このマクトミの実はいくつ買えるんだい?」




