第105話、アジト強襲
ウェヌスのアジト『ドゥエーリ』、その正面玄関に近づくソウヤ。ガルが、かすかに驚きを声に含ませる。
「まさか白昼堂々、正面から乗り込むのか?」
「まさか、夜を待って潜入するつもりだったのか?」
ソウヤは大げさに返した。潜入とか、そういう暗殺者なスニーキングなどはできない。
「こちとら、こういうやり方しか知らん」
魔王城に突撃した時も、正面から門をぶち壊してやったソウヤである。
「お客様――」
入り口を掃除していたガタイのいい店員が立ち塞がった。
「営業は夜からになります――」
「知ってる。カリュプスの殺し屋が、ウェヌスのアジトに用があってきた」
ソウヤは、隣のガルを指し示しながら告げた。ミストたちは黙ってついてきているが、町でこちらを尾行した者たちが、その背後に集まってきているのを感じた。
――いいぞ、集まってこい。いちいち狩り出す手間が省けるってもんだ。
「どうぞ――」
店員は、扉を開けて、ソウヤたちを中に招き入れた。案外あっさり引いたものだった。ソウヤとしては、扉をぶち破ることになるかも、と予測していたのだが。
――ま、アジトに誘い込んで、袋叩きにしようって魂胆だろうな。
こっちが、カリュプス構成員の中でも有名らしいガルを連れているせいか、連中も察しがいい。
夜の営業ということで、酒場エリアに客の姿はなく、奥へと進む。賭博場に差し掛かるが、こちらも部外者の姿はなし。だが、至る所から続々と構成員とおぼしき男たちが現れ、ソウヤたちを遠巻きに包囲する。
案内をしていたガタイのいい店員が、不意に立ち止まった。
――おっ、いよいよやるか?
「ふふふ、自ら虎口に飛び込んでくるたぁ、飛んで火に入る夏の虫ってやつよぉ! ぶっ殺せぇぇ!」
色々混じっているというのは置いておいて、男の声に、周囲の構成員たちが一斉に武器を手に飛び込んできた。それで、ソウヤは察してしまう。
――あー、こいつら暗殺者以前の雑魚だなぁ。
「ソフィア!」
ソウヤが呼びかけると同時に、魔術師見習いの美少女は魔法カードを掲げた。
「ほとばしれ!」
カードの魔法を発動。紅蓮の業火がソウヤたちの周りを走り、突っ込んできた構成員どもを炎に飲み込んだ。
怒号は悲鳴に代わり、すぐに消えた。ミストが仕込んだ魔法カードの威力が、ドラゴンブレス並だったせいだ。周りの物もろとも、一階フロアにいた敵は消し炭と化した。
「……」
そのあまりの光景に、ソフィアは、おろおろし始めた。いっぱい人を殺したことで怖くなったのかもしれない。
「気にするな、ソフィア。やらなきゃ、殺されてたのはお前のほうだ」
それは紛れもない事実だ。男は殺し、女は暴行――そういう手合いだろう。
ともあれ、殺し屋とも呼べないゴロツキは一掃した。
「こっから本番だぞ。地下にいる連中は、本物の殺し屋だ。油断するな」
ソウヤたちは地下へと下りる。ウェヌス狩りの始まりだ。
・ ・ ・
暗殺とは、気づかれずに殺すことを本懐とする。
不意打ち、奇襲、奇策、その他……。とにかく相手が気づいた時は殺している時というのが理想である。
そして暗殺と一言でまとめたとて、その手段は多種多様。腕力に頼る場合もあれば、遠隔で魔法をかけたり、罠を仕掛けたり、食事に毒を盛るなど、それぞれの得意とする技は異なる。そうなると、正面からの力押しで来られると、非力な者も出てくるものだ。
弱った敵に物理でトドメを刺す始末屋や、戦闘もこなせる暗殺者、そして戦闘系の殺し屋が、正面突破を図るソウヤたちを迎え撃った。
だがソウヤの剛力や、ソフィアの遠慮の欠片もない大魔法によって蹴散らされていく。それならばと、奇襲や待ち伏せを仕掛ける者もいたが、ガルやミストに立ち所に察知され返り討ちにあっていた。
さらに下の階層へ。狭い通路を抜けると、そこには円形の地下闘技場があった。周囲を客席が囲み、金網で双方を仕切っていた。
そしてソウヤたちが入った入り口の反対側には、狼頭のマッチョな獣人が七、八人ほど待ち構えていた。全員、首輪をしているが……ウェヌスが使役する戦闘奴隷だろうか?
「気のせいかな、嫌な予感がしてきたぜ」
ソウヤがそれらを睨むと、客席――主賓席のほうから女の高笑いが響いてきた。
「アッハハ! ガル・ペルスコット、よくもまあ、アタシの前に現れたわね!」
紫髪を後ろで束ねた妖艶な雰囲気を漂わせる女だった。マントを肩にかけ、胸元が大胆に開いた魔術師ドレスをまとう。二十代後半、あるいは三十代か。
「知り合いか、ガル?」
「ウェヌスの女幹部。奴がブルハだ」
「あれが噂のやつか――」
カリュプス壊滅を率先し、指揮したという幹部。そしてガルに獣人化の呪いをかけた魔術師。
そのブルハという美魔女が、高いところから、ガルを見下ろす。
「カリュプスの残党も、残るはアンタだけね。降伏するなら、命は助けてあげなくもないわ」
余裕かまして、笑みを浮かべるブルハ。おいでおいで、と手招きをしている。
「断る!」
ガルは即答だった。その瞳には激しい激情が渦巻いている。
「仲間たちを殺し、組織を壊滅させた連中に従うつもりはない!」
「暗殺組織が殺さなくてどうするの?」
さも馬鹿にしたようにブルハは、大げさに肩をすくめる。
「まさか、かの有名なカリュプスの構成員から、仲間の仇なんて言葉が出てくるとは思わなかったわ」
「……」
――確かに。
ガルには悪いが、ソウヤも内心では、そう思った。殺し屋に対する偏見かもしれない。
「それで、狼ちゃん、そちらのお仲間はどこのどなたかしら?」
ブルハが、ソウヤたちを見た。
「暗殺者というふうには見えないのだけれど……ひょっとして用心棒でも雇ったのかしらぁ? そこの人たち知ってるぅ? その美形ちゃんは、夜になると獣人になっちゃうのよ」
「それが、どうしたというのかしら?」
ミストが、嫌みたっぷりな調子で返した。
「彼が狼なら、ワタシはドラゴンよー」
ははーは――ソウヤは乾いた笑い声を出した。ブルハは面白くなさそうに口をへの字に曲げた。
「ふうん、まあいいわ。さっさと始末してしまいましょ。――ガ~ル? ここにいる可愛い狼ちゃんたちがお相手よぉ」
ブルハが、獣人たちをけしかける。
「アンタの言う仲間たちのなれの果てよ。戦えるかしらぁ? さあ、お行きなさぁい!」




