第104話、いざ敵地へ乗り込まん
朝起きたら、もふもふした毛皮の獣人はなく、ほっそりした美男子がいた。
ガルが獣人化しているところを見ていなかったら、同一人物とはとても思えなかった。
そんな彼を見て、ソフィアは言った。
「あなたって美人よね」
「そうか……」
当のガルはどこ吹く風といった反応。これにはソフィアも少しカチンときたようで。
「なにこの無反応っぷり!」
「……」
ガルの視線が、真っ直ぐソフィアを射貫く。彼女はビクリとする。
「な、何よ?」
「……」
特に怒るでもなく、睨んだわけでもないが、熟練の暗殺者の視線に、お嬢様はびびったようである。
「はーい、それじゃ朝ご飯にすっぞ!」
食卓に揃って、全員で食事。最近はパン食よりお米が多いのだが、まだ慣れていないガルもいるので、おにぎりにしてみた。
ミストなどは海苔代わりに肉を巻いたおにぎりをガブリ。いっぱい食べるので、ひとりだけ他のメンツの五倍を用意してやった。
朝食の後は、王都にあるウェヌスのアジトへ乗り込むために移動だ。例によって、浮遊バイクを引っ張り出す。
「変わった乗り物だな」
「そういや、ガルは初見だっけ、コイツを見るのは」
ソウヤが顔を向ければ、ガルは特に驚くでもなく、他の面々と同じように接続された荷車のほうに乗った。
――なにこの淡泊な反応。
別に驚かせたいわけではないが、ソウヤは少し不満。
ともあれ、エイブルの町から王都までは街道を走って二時間もかからない。朝の涼やかな空気の中、疾走する浮遊バイク。
王都に入ってからは徒歩での移動になる。
「さて、いまさらだが、引き返すなら今のうちだぞ?」
ソウヤはガル以外の面々を見た。
「オレはウェヌスを潰す。それによって、連中の報復が銀の翼商会に向くかもしれない。だが報復が怖いからと、ダンマリはオレの性分じゃねえ。でもお前たちは別だ。強制はしねえし、嫌ならここで抜けてもいい。たんまり退職金もつけてやる」
「何を言い出すかと思えば」
ミストは鼻で笑う。
「こんな面白そうなことに首を突っ込まないのはナシだわ」
相変わらずのミストである。ドラゴンにとって、暗殺組織など何するものぞ、だろう。
「セイジ」
「付き合いますよ」
少年は肩をすくめた。
「ソウヤさんには恩があります。それに僕も、こういう場面でも立ち向かえる強い冒険者になりたいってのが目標ですから。……地獄の底でもお供しますよ」
頼もしいお言葉だ。ソウヤは微笑する。
――こいつは着実に強くなっている。
だが暗殺組織の殺し屋を相手にするには、まだまだ不安も付きまとう。が、怖い、敵わないで逃げていては、強くなれないのも事実だ。
「ソフィアは? お前はここに来て日が浅い」
「わたしは師匠から魔法を教わっている途中なの。そして他に行き場なんてないわ」
ソフィアは拗ねたような顔になる。
「もちろん、迷惑な話だし、できれば関わりたくないって気持ちはあるわ」
「怖いなら、アイテムボックスの中にいてもいいぞ。その間に、オレらが始末つけてやるから」
「怖くないっ……と言ったら嘘ね。でも、わたしは無駄飯食らいにはなりたくないの。まだ未熟だけど、役に立てるなら立ちたいって思ってる」
「その心意気は買おう」
全員の意思を確認したところで、ソウヤはガルに頷いた。目的のウェヌスのアジト――高級酒場へと王都の雑踏を行く。
「ソウヤ、気づいているか」
通行人の間を縫いながら、ガルが目を鋭くさせた。
「何人かが、俺たちを尾行している」
「だろうな。お前は目立つ」
ソウヤは、近くを行くイケメン暗殺者を見やる。
旅人用のマント――その下はきちんと戦闘服を身につけている。なお、服を買っている余裕はなかったので、銀の翼商会の開発品である魔法カードで戦闘服を具現化させている。
どうせ夜になると脱がないと破れるのだから、時間制限のある魔法生成装備でいいだろう。……商品の実地試験と思えば安い物だ。
「せめてフードを被れれば……」
目立っている自覚があるらしく、自身の髪を撫でつけるガル。近くをすれ違った王都の女性が、そんな彼を見て、ため息をつく。
ソウヤは口元を引きつらせる。
「目立たせるためだよ、シャイボーイ」
ウェヌスの連中も、さぞ注目してくれるだろう。
「そこまで有名人になった覚えはないが……」
「ひと目みたら印象が残るタイプだからな、仕方ねえよ、イケメン」
「……」
「さて、冗談はここまでにして――」
ソウヤは話を変えた。
「酒場ドゥエーリってのは、どんな店なんだ?」
「昨日、締め上げた奴の証言によれば、一階フロアにバー、そこに繋がる形で賭博場がある。上層階が酒場のスタッフ関係、地下が暗殺組織の隠れ家らしい」
やがて、目的地が見えてくる。高級住宅街に近い屋敷じみた豪華な建物だ。正面の入り口には、ガタイのいい店員が立っている。
「人数は?」
「二、三十人くらいだ。外で仕事をしている奴もいるから、全員はいないらしい」
「そんなものか」
「カリュプス狩りで、ウェヌスも人員が減っている。俺のところにも刺客が結構送り込まれたからな」
「会うたびに、お前さんの周りには連中の死体だらけだったもんな」
「その分は減らせたと思う」
「だろうな。人気者だな、お前は」
こちらが知る限りでも十数人は始末している。おそらくそれ以上を殺害したはずだ。
「もうお前さんが、返り討ちにするだけで連中を全滅させられないか?」
ソウヤが皮肉れば、ガルは真顔で答えた。
「いや、俺もかなり追い詰められていた。ソウヤと出会わなければ、やられていたかもしれない」
冗談をマジトーンで返された。ガルは冗談が通じないタイプだと、ソウヤは思った。
――さて、乗り込もう!




