第102話、ガルの事情、ソウヤの事情
アイテムボックス内にガルを引き入れたソウヤは事情聴取を開始。
なかなか口の重いガルから、一通りの事情を聞き出すまでに時間を消費。さらにガルのほうからもソウヤに、いくつも質問があって、話が前後したりと、とかく長くなったので、スープと晩ご飯を取りながらの説明となった。
「ということで、まとめる」
ソウヤは、ガルや、ミストら他の面々を見渡して言った。
「まず、カリュプスとウェヌスのドンパチは、ウェヌス側の勝利に終わり、カリュプスはほぼ壊滅した」
「リーダーのアシャンは死んだ」
ガルは頷いた。
「ソウヤが、彼を埋葬してくれた件は感謝する。彼の尊厳は守られた」
――まさか俺が埋めた人物が、カリュプスのリーダーだったとはなぁ……。
ガルと出会う前日、街道で盗賊集団と戦ったソウヤたちだが、その時に横転していた馬車が、カリュプスのリーダーとその一団のものだったらしい。
冒険者ギルドのガルモーニから、盗賊の中にウェヌスのメンバーがいたらしいと聞いていたので、カリュプスのリーダー、アシャンとその部下たちは街道で襲撃を受けてやられてしまったようだ。
――ただの盗賊に、暗殺組織のボスが簡単にやられるとは思えないんだがな……。
今さら言っても仕方がないが。ソウヤと分かれた後、追っ手を始末したガルは引き返して、横転した馬車と墓を見つけた。
それが彼と戦ったウェヌスの連中を埋葬したのとやり方が同じだったので、ガルは、ソウヤたちがアシャンの死を知っているのではと思ったらしい。
なお、エイブルの町で、ソウヤを尾行していたのはガルだったそうだ。
「次、冒険者ギルドでの爆発事件」
ガルから聞いた話から推測すると、爆発したのはウェヌスの手の者ではなく、カリュプスの連絡員でヴォアールという男のようだった。
「ウェヌスがカリュプスの構成員を殺して回っていて、ヴォアールもおそらくその手にかかったのだろう」
ウェヌスには遠隔系爆発魔法の使い手がいるらしく、犯行はその人物の仕業だろうというのが、ガルの見立てだ。
「カエデが狙われたわけではなく、ヴォアールが消された時、たまたま近くにいたせいで巻き込まれただけだったようだ」
「ひと安心、ですかね……?」
首をかしげるセイジ。ソウヤはガルを見た。
「どうなんだ、ガル?」
「元構成員の家族――だがその構成員がすでに死んでいる場合は、ウェヌスでも手は出さないと思う」
獣人姿のガルは言った。狼顔のせいで、表情がよくわからない。
「すでに関係のないところで生活して数年なら、下手に手を出すと、その周りの連中が騒ぎ出す。余計な仕事は増やさないものだ」
「そして最後に――」
ソウヤは、ガルを見た。
「あんたが、『獣人にされてしまった』件。ウェヌスの魔術師が使った呪いのせい、で間違いないか?」
「ああ。俺は元は人間だった」
ガルは、かすかに怒りを滲ませる。
「俺の他にも数人、敵の呪いをかけられた。夜になると獣人になる呪いだ」
初めてガルに会った時、彼が全裸だったのも、その獣人化による体のサイズ変化で服が使い物にならなくなったのが原因らしい。毎晩、服やズボンが駄目になるなど、経済面で相当な負担である。
いや、それよりももっと深刻なのは、獣人化した場合、周りの人間が魔族や化け物と判断して敵対的になることだ。
必然的に追われる身となり、ウェヌス以外の一般人、冒険者、治安維持の兵からも襲われてしまう。事実、それで呪いをかけられたカリュプスのメンバーが命を落としたという。
獣人化すると身体能力が高まり、腕力や走力などが上がるのだが、やや気が短くなり、戦っていると血に飢えることもあるそうだ。
呪いがある限り、ガルは普通の生活など送れない。昼は町などに溶け込めても、夜になると、おちおち外も出歩けない。人のいない自然の奥地や辺境で隠れ住むしかなくなる。
「だが俺は、仲間たちの仇を討たなくてはいけない。ウェヌスは、殺しに無関係な者も平気で巻き込む。暗殺者の風上にも置けない」
「……その呪いを解く方法は?」
暗殺者の掟とか美学は興味はないが、ガルにとって呪いは厄介極まりないものだろう。ソウヤとしても、ウェヌスが冒険者ギルドの爆破で、冒険者たちを巻き込んだことでご機嫌斜めである。
「わからない」
ガルは、自身の呪いについて無力だった。
「術者を殺せばいいのか……。解く方法があるのかどうか」
フムン――ソウヤは押し黙る。ミストが、そんな彼の袖を引っ張った。
「あなた、この呪いもどうにかしようと考えているんじゃないでしょうね?」
「心当たりない?」
「はぁ……。ほんとう、底抜けのお人好しね」
呆れるミストに、ソウヤは苦笑した。
「こういう人間なんだよ、オレは」
「わかってる? こいつ、殺し屋よ?」
「だから?」
ソウヤは、じっと獣人姿のガルを見やる。
「こいつは、無差別に殺人をするような奴じゃない。ウェヌスのやり口に不満があるってさっき言ってたろ。こいつは仕事人だよ」
「……」
ミストが何か言いたげだが、うまく言葉にできないようで黙り込んだ。ソウヤは冗談めかした。
「それに、殺し屋うんぬんで言うなら、オレは魔族やモンスター専門の殺し屋だ」
「うまいことを言うわね」
ミストが微笑した。
「ワタシ、自分のしていることの清濁をきちんと理解している人は好きよ」
「そりゃどうも」
ソウヤは不敵な笑みを浮かべた。
「ガル、オレは今、すこぶる機嫌がよろしくない。ウェヌスの連中のことで知っていることを全部教えてくれ」
「何をするつもりだ?」
「決まっている。ウェヌスをぶっ潰すのさ!」
ソウヤは右の拳を左の手のひらに叩きつけた。
「あんたはウェヌスに復讐するつもりなんだろう? いいぜ、オレにも手伝わせろ。ギルドで仲間やられた借りもあるしな」
「……何故だ?」
わからない、とガルは首を横に振った。これまで獣人化した姿をみて、平然としていられる人間はいなかった。あまつさえ、手を差し伸べるようなこともされたことはない。
「何故かって? いいかい、勇者の視点からすると、ウェヌスは魔族と同じ、人の生活に害のある存在だ。そういう悪党を倒すのに、細かな理由なんていらないんだよ」
「勇者……?」
ポカンとするガル。後ろでソフィアも呆然とする。
「え、やっぱりあなた、勇者のソウヤだった……?」
「同性同名の勇者マニアだッ!」
ソウヤは声を張り上げて否定した。つい口が滑っちゃっていけない。




