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少し休憩

 アンドーさんが出した、卵サンドイッチを食べながら会話をする。


「ふむぅ、あのドラゴン、恐怖を感じていないな」


 ダンが深く目を瞑ってから、そう言った。

 魔法を使ったんだろうな。


「まだ勝てると思ってるのね。手間が掛かるね」


「土も避けられた。縦に落としたのが失敗」


 アンドーさん、縦に落とすって何だ?

 まさか、細長く切り取ったさっきの土を棒のように立てて落としたのか?

 殺す気満々だな。


「ナベ、お前があのドラゴンなら、次はどうする?」


 また俺に質問か。自分で考えろよ。


「アンドーさんの転送魔法は相手にとっては致命的だから何とかしたいところだな。連続でやられたら、あの部屋が土で埋まる。または、湖からの水路を作られて溺死する。対処できないなら、逃げないという前提でドラゴンの負け濃厚。なので、全力でアンドーさんを潰す」


 加えて、俺の疑問も付け足す。


「ただ、引っ掛かるのは、ダン達が『奥にある大切な物』を転送で取らないことだ。それがドラゴンを悩ますだろう」


「そうか、別に欲しくないからな」


「気付かなかったね」


「何があるんだ?」


「ここに入る前に詳細にマッピングしたのよ。そしたら、キラムの祠の下にあったみたいに、岩に偽装した道具があったの。大きさ的には石かな。封印されて長く経っていて、使われてなさそうだけど、それを使えば、この地の『地の魔力』を弄ることが出来るよ」


 いきなり初耳のワードを出すなよ。何となくイメージできるけどさ。


「『地の魔力』って何?」


 それにダンが答える。


「その地が持つ魔力のことだ。街や村、森もそれに合わせて自然淘汰的に出来上がる。人間というか、それぞれ生物には適したバランスの『地の魔力』があるのだ。人間にとって『地の魔力』が濃過ぎると獣人が増え、薄過ぎると非力な奴が増える。それでもナベ程ではないがな、ガハハ」


 何の笑いだよ。不愉快千万だぞ。

 何せ俺は、巫女長曰く、コバエの死体以下だからな。

 そう思いながらも質問を続ける。


「体内の魔力が少ないってヤツか?」


「そうそう。肉体的以外に、素質にも影響するから、『地の魔力』が少なくなると魔法使いも減るわよ」


 ティナが補足してくれる。たぶん、大剣を担ぐ少女もいなくなるんだな。

 ん?そうすると、獣人は体内の魔力が多い奴ってことになるのか。

 ノーマルな人間より進化してるって取ってもいいのかな。



「あれだろ、俺は分かったぞ。その『地の魔力』が濃過ぎるのを更に行き過ぎると、人間の体でさえもなくなるんだろ?」


「当たり。それが魔族。滅多にいない」


 アンドーさんが拍手しながら返答してくれた。

 無駄にパチパチした音が寂しく響く。

 うざいな。何だよ、その動作。


「竜が守っている道具があれば『地の魔力』を調整できる。お前達は、だから、その道具を狙っているのか?魔族を増やすために」


「そんな訳ないでしょ。もし、そうなら、もう土でも何でも転送してドラゴンを圧殺してるわよ。いえ、ドラゴンを遥か向こうに転送した方が楽に盗めるね。その後に、ゆっくり探すわ。そもそも、カレンちゃんをダシに使う必要もないわよ。ナベも誘わずに、一人で攻めるわよ」


 そら、そうだな。それくらい出来そうな連中だ。

 その石を転送で盗れば良いだけの事だ。


 俺は目の前の籠に入ったリンゴを皮ごとかじる。カレンちゃんがいたら、また取り合いになっていたな、このティナのリンゴ。

 それがないから、少し寂しい。



「竜はその道具を守りたいのかな」


「それは分からん。街を守る理由があるのだろうが」


「普通だったら、短命の人間の事なんてどうでもいいものね。物好きな竜もいたものね」


 まぁ、事情は分からないが守りたいんだから、ここにいるんだよな。

 その道具がどんなものかは知らないけど、それを調整すればカレンちゃんみたいに獣人化で苦しむ人が減るのかな。

 でも、魔法使いが減って皆が弱くなると、他国からの戦争とか魔物に襲われる被害が増えるかもしれない。


 もっと長期で考えたら、そんな地には誰も住まなくなるのか。

 その道具の有効範囲を無茶苦茶広げたら解決するような気もする。



「で、あのドラゴンに勝てるのか?」


 そう、これを聞かなくちゃ。アンドーさんのさっきの無茶、途方もない量の土による重量攻撃でも平然としてるなら、相当強いだろ。

 今のところ、俺的感覚で7割くらいの感じで、あっちの方が光陣営、人間の味方だと感じているから、最後は命乞いをするという選択肢も取れると信じている。俺に対して悪印象ないですよね。

 巫女長なら良い感じで釈明してくれているはず。



「勝てるわよ。勝負にならないレベルで」


 本当か。いや、でも、ダンはその聖竜とやり合ったらしいガイコツに余裕勝ちしてたな。


「今すぐ、見るか?」


 アンドーさんが酷薄に笑いながら俺に問う。


 だから、そういうのが魔族っぽいんだって。すぐ力に訴えるんだから。

 黙ってたら可愛い方なんだから、朗らかに生きろよ。


「いや、いい。アンドーさん、怖いもん。……いや、でも、俺にはアンドーさんが魔法で本当にあれだけの土をドラゴンの部屋に移したかは分からないな。口だけとか?」


「舐めるな、小僧。私はした」


 多分してると思うよ。

 お前はそういう奴だ。根性がひねくれている。

 何せ、まだジャージ姿だしな。

 お前が怖いから、俺は強がっただけだ。

 察しろ、バカ。



 しかし、もう少し虚勢を張ってみよう。じゃないとこれまでの少なくとも会話上は対等だった関係が崩れそうだ。


「証拠がない。俺に分からせる方法はないのか?」


「ある」


 アンドーさんが指を鳴らす。

 一瞬で視野が暗くなる。

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