まだまだ進む
「さて、次はこの縦穴を下りてから直進約100m、その後、上向きの穴を約20m昇るわよ」
ダンジョンを順調に進んだ俺たちの前に、奥深い穴が立ちはだかっていた。
立体地図だとここを下るみたいだが、ロープもそれを括る場所も無い。
俺のいた世界ならここで戻ることになるが、今は大丈夫。
さぁ、魔法でさっさっと俺を運ぶが良い。
「あっ、ダメだ。この穴の中、空気じゃないね」
ティナが穴を見詰めてからそういった。
「そんなのも分かるの?」
俺は率直にティナに訊く。
魔法、本当に便利でいいな。
大学でガス分析していたけど、サンプリングだとか分析機への注入の時の空気のコンタミネーションとかの問題で結構メンドーだったんだよな。
「それはもう、私たちは魔族、ゲフンゲフン、大魔法使いだからね」
わざとらしい。わざとらしいが、この大根演技は素直にノリとしてなのか、それとも、そう見せ掛けてのまさかの魔族でしたジャジャジャジャーンなのか。
こいつも楽しんでいるよな。
「二酸化炭素だね。こっちの方が出口穴より低いから、あっち側が二酸化炭素で充満してるって事はなさそうかな」
ティナが立体図で現在地を確認しながら言う。
「対策あるんだろ?簡単に転移で抜ければいいんだろう」
「バカねぇ、それだと面白くないじゃない」
面白さは要らないだろ。
「ふむ。ナベなら、どうする?」
ダンが俺に訊く。
「俺が出来るなら、この二酸化炭素を転送してあのドラゴンの部屋の空気と交換する」
「ほんと、今日のナベは冴えてるね。見違えるよ。立派な魔族になれるね」
ありがとう、ティナ。
だが、出会って数日くらいだ。昨日までの俺も一緒だったろ。
いや、山で息を切らしたり、おなら芸をしたりか。ダメ人間の印象の方が強いと言われても、反論できないな。
「なるほど、そうすることで敵にダメージを与えられる可能性があるだけでなく、今後の毒ガストラップも抑止できるのだな。さすがは大魔王候補である」
誰が大魔王候補だ。初めて聞いたわ。
そんなつもりもないだろ。
本当にこいつらは適当だ。
あのドラゴンにわざと聞かせているのだろうが、聞いている方も大変だろうな。
アンドーさんが指を鳴らす。二酸化炭素を交換転送させたのであろう。その証拠に、竜の近くの最深部で嗅いだ獣の臭いがモワッと下から鼻を突く。
大丈夫だと思うが二酸化炭素ごときで死ぬなよ、ドラゴン。
俺とは呼吸システムが違うと信じているぞ。
聖なる竜を殺したとなると世界を揺るがす大事件かもしれないからな。いや、紛れもなく大事件だ。勘弁して下さい。
きっと多分、恐らく、大した濃度上昇じゃないはずだろうし、ドラゴンには酸素が必要ないかもしれないけど、アンドーさんがドラゴンの周辺への転送は避けてくれていると信じているぞ。
あぁ、しかし、アンドーさんは、とりあえず性格が悪魔なのは確定している。頑張ってくれ、ドラゴン。
俺たちは浮遊魔法で穴を下がる。
下まで行くと、また徒歩なのだが、俺には違和感があった。
これまでの道程では天井も床も横壁も全面石造りであったのに対して、ここの通路は床と壁が剥き出しの土であった。
いや、天井付近の壁はさっきまでと変わらず石材か。
天井までの距離も今までと違って高すぎる。それがずっと次の上向きの縦穴の所まで続いているのである。
横壁からポロポロと土が落ちてくるため、生き埋めになるんじゃないかと危険を感じる。
最終的には急ぐために床を歩かず、また浮遊魔法で飛びながら移動させてくれた。もう転移でいいだろ。
何か嫌な予感がする。
まさかとは思うが、俺はアンドーさんに確認した。
「アンドーさん、もしかして二酸化炭素だけでなく……床ごと掘る感じで土も転送させた?」
「そう。びびらせた」
本当に悪魔だ。
どれくらいの土だ?長さは100mとティナが言っていた。横は3mくらいか、底から元の石壁の所までの高さは……目算5m。1500立方メートル。
おい、その容積だと水でも1500トンだぞ!!比重の重い土ならどれくらいだよ!
本当に生きていてくれ、ドラゴン。
そっちが生き埋めになってるなよ。
俺が真面目に心配している中、目的の縦に延びる穴を体が上昇していく。そして、その一番奥にある横穴を折れ曲がって、また広い通路に出る。
縦穴の途中で別の横穴を二つほど通り越していた。地図がないと、本当に苦労する形だ。分岐が多すぎる。
「休憩するぞ。ナベも疲れたであろう」
もちろん、そうだ。助かったぞ、ダン。
ダンはまた俺たちを囲む紫光の箱を出し、俺たちは車座になって食事をする。
立体地図で見ると、半分くらいを来た感じだ。




