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ダンジョンを進む

 猜疑心どころか騙された感が強い俺だが、結局、三人に付いていく。こんな真っ暗な所で一人になるのは恐ろしい。

 それに逃げたらあっさり殺されるんじゃないのか。


 ガイコツが魔力を吸ってた時に『魔族か』と訊いていたのを思い出した。あいつ、正解だったかもな。

 だからこそ、あっさりダンの下で働こうと決めた可能性がある。


 しかし、この先行き不安はダンジョンを抜けてから考えよう。

 カレンちゃんの無事を確認しなければ、こいつらから離れられたとしても後悔しか残らないと思うし。

 マジ、神様であってくれよと、神に祈りたい。



 光はティナが出してくれた俺用のダンジョン立体図と、アンドーさんが出した前後を照らす光球である。

 立体図は俺の前方上にゆっくり回転しながら浮かんでいる。現在地と入り口は赤色の光点で示されているようだ。

 3つの光が照らしてくれているが、奥の方まで照らすには光度が足りない。


「ナベよ、ヤツの術中に嵌まってはならないぞ」


「その格好は何だよ?まんま魔族だろ」


「これはノリよ。あいつが言うから遊んでやったのよ。よく考えて、白いだけのドラゴンよ。こんな暗いところに住んでるから色素が必要ないだけ。神の何たらは気にしないで」


 気にするわ。


「カレンの悔しさを思い出してはどうだ?あのドラゴンはカレンの頭を蜂にしたヤツだぞ」


「あのドラゴンがやった証拠がないんだぞ」


「しつこいわね。このドっちゃんの名前にかけてアイツが犯人よ」


「誰だよ、そのドクロ。お前のじいさんであっても、そんなもん掛けられて意味ないだろ」


不毛な会話をしつつ前に進む。



「また来た。ムカデ」


 たまに襲撃に来るのは俺の身長くらいの長さを持つ、大きい虫タイプのモンスターだ。ダンがスパスパ切ってくれる。

 魔族の可能性濃厚だが、こういう時はさすがに頼りになる。


「次はナベがやってみるか?」


「いや無理だ。脚と顎が生理的に受け付けない」


「カレンが泣くぞ」


 カレンちゃんの蛹を思い出した。

 んー、あの頭凄かったな。

 複眼って、拡大したらあんなに気持ち悪いんだ。

 同じ様なものをサイエンスホラー映画で見た時よりも肌がザワザワしてしまった。


「いや、確かにそうだが、それとは関係ないだろ。……いや、すまない」


「しかし、虫ばかりとはな。食料を現地調達しなくてはいけない時にはきついタイプのダンジョンだ」


「そう言えば、ダンはこのムカデはいけるのか?除虫対象にはならないのか?」


 いつも駆除していたからな。

 キラムじゃ、村から祠まで丹念に虫避けの作業している姿が動画に収められていたし。


「小さいのがダメなんだ。特に蚤が嫌いだ」


 どうでもいい情報だったな。興味ない。

 まぁ、この巨大ムカデに対して苦手意識がないのであれば、ガンガン行こうぜ、だ。



「アンドーさんなら食べられるように料理できそうだな、このムカデでも」


「下手物が好きか?」


「いや、全く食べる気はないぞ」


「好き嫌いを言うようなことでは立派な魔族になれないわよ。ミックスムカデジュースは朝御飯のお伴よ」


「餓死を選ぶよ」


 ティナが冗談なのかどうなのか分からない台詞を吐いてくる。

 ムカデジュースって何だよ。汁気がないだろ、この虫は。


「ジュースだよ」


 アンドーさんが可愛らしい声でコップを差し出してくれた。

 ありがとな。

 そんな声も出せるんだな。普段から出しておけよ。



 だが、俺は知っているぞ。


 そいつが今話題のムカデの取れ立て体液100%であることを。

 何せ、俺の目の前で死んだムカデから汲んでいたのだから。

 そうか汁気はなくとも体液があるんだね。

 って、飲めるか、そんなもん!

 この悪魔め。

 切断されているのに脚が蠢いていて、近寄りたくもないんだぞ。



 からかっているのか、混乱させようとしているのか今一掴めなかったが、なんだかんだ、俺はこいつらと一緒に楽しく最深部へ向かっている。


 魔族云々の前に、こいつらが気のいい奴等であることは間違いない。

 少なくとも、あのドラゴンの前までは、今まで通りに接することで問題ないだろう。むしろ安心だ。

 待ってろ、カレンちゃん。

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