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嵌められた

 紫色に薄く輝く箱の中で俺は訊く。


「何、あの紙?」


「こっちの主張を書いたやつよ」


 ティナが微笑みながら言う。

 竜と出会った時の緊張感が、まだ俺には残っていて、その笑顔とのギャップがひどい。



「あのドラゴン、読めるのか?」


「読めなくてもいいのよ。こっちが正当な手続きをした事実だけが欲しいの」


「まだしてんの?何の手続きしてんだよ?」


「バックに何かいると面倒だからね。一応、正規の手続きをしているの」


 バックなんか気にしなくて良いだろ。

 神様に逆らえるのは神様だけじゃないのか。あっ、あの竜が他の神様の関係者かもってことか。


 しかし、他の神様もこいつらと同じじゃないだろな。

 適当過ぎるこいつらみたいのばかりなら、世界の滅亡は近いと心配だ。




『拝啓 お初にお目に掛かります。貴殿においては益々ご清祥の事とお慶び申し上げます。


さてと、見ていたから分かるでしょ。カレンを私たちの支配下におくこと、いい?


言うことを聞かないと殺しちゃうよ。あと、逃げたりしたら上の街を破壊するから。皆殺しだよ。


分かってるんだから、あんたは街の守護竜でしょ。それは不味いでしょ?怒られるでしょ?一族の恥さらしになっちゃうね。


でも、私の言うことを聞いても殺しちゃうから。私を舐めた代償を思い知らせて上げる。

今からこの迷宮に入り直すから戻って来たら首を跳ねて上げるね。守護竜がいなくなった街も可哀相だから滅ぼすね。

ざまぁ。


あんたが守って来た街、今日で終わりだね。街を守っているくらいだから、何かいい思い出でもあるのかしら。それもぐちゃぐちゃ、いえ、ぐっちゃぐっちゃにして上げるからね。


私は慈悲深いから、2つだけ助かる方法を教えて上げる。


1つは私たち4人の内、一人でも殺すこと。

その時は敗けを認めて、あなたを殺すことはないわ。

もう1つはその奥で守っている物を寄越すことよ。


以上、何卒ご査収のほど、宜しくお願い致します。 敬具』



 これがティナが教えてくれた、竜に渡した手紙の内容だった。


 もう一言で『殺す』とか書いた方が分かりやすいんじゃないか。殺意と悪意がありありで、聞かされた方も嫌な気分だ。


 最初と最後の定型文の無駄は横に置いても、他は既に確定事項。通知のみだ。

 その後の文章は、『殺す、殺す、殺す』。


 ドラゴンを煽ってるんだと思うが、やりすぎだよね。

 もはや、カレンちゃんが犠牲になった方が被害が少ないって、どういうことだ。本末転倒も甚だしい。

 ローリィとかガインじいさんとか宿屋のおかみさんとか、関係ないのに皆殺しって。

 本気ですか、ティナさん。



「いい挑発でしょ」


「本当に街を滅ぼすのか?」


「そんなことしないわよ。するなら、もうしてるし」


 ティナは笑いながら言う。

 良かった。今後も、そんな物騒な選択肢を持つなよ。


「あのドラゴンはどう思おうかは勝手だが、可能性があるだけに逃げないだろう。今の時点では勝てると踏んでいるだろうしな」


「最後の一文が味噌よ。カレンは因縁付けのためで私たちの目的が別にあると考えるはず」


「さて、今から結界を外す。これからはヤツの監視下だからな。」



 箱が消える。あえて監視の目は潰さないという事だな。


 先程のドラゴンはおらず、石造りの通路に立っていた。

 ここがダンジョンの入り口なんだろう。



 臭くない。嬉しい。


 突然頭の中で声が響く。


『命短し魔族たちよ。そのまま立ち去るが良い。ぬしらが欲す物は身に余ろう』


 太い声だ。俺の幻聴でなければあのドラゴンのものだろう。

 というか、ダン達は魔族と誤解してるな。しかし、あっちからしたら悪魔みたいなものだから、いいのか。


 いや。俺が悪魔の言葉を理解したことが巫女達から既に伝わっているのか。



「ガハハハ、身に余るかは手にしてから考えよう。それまでにお前はどうすべきか熟考することだ」


 ダンが快活に答えた。

 うん、幸い、さっきのは幻聴ではなかったらしい。


『背後の階段を昇り街に戻るが良い。先に進むのであればいずれ塵となろう』


「何故、魔族と分かったの?」


 ティナが尋ねる。おい、さらっととんでもない事を告白してないか!?


 魔族なのか!?魔族と神様じゃ大きく違うぞ。俺の身が心配だ。序でにカレンちゃんも。



『我の眼前に現れる転移の高度な技術。それでありながら戦闘を避ける狡猾さ。見え透いておるわ』


「私が慈悲深い可能性も、まだ残っているわ」


『そこの人間をたぶらかし、我に守護すべき人間を殺させようとは笑止。神の加護を賜りし、この神聖竜スードワットを舐めるな』


 シンセイ、神聖?聖竜より、文字通り神々しいんですけど。

 さっき見て確信した通りの聖なる竜かよ。

 神の加護とかも言っちゃってたよね。

 完全にこっちが闇陣営じゃん。



「ナベ、惑わされるな。俺たちを信じろ」


 ダンが振り向きながら言うが、お前、その金色ドクロの兜とその禍禍しい黒剣なんだよ。キラムの祠で見たガイコツの物真似か?

 完全にダークサイド堕ちの騎士みたいになってるぞ。

 それにその剣な、巫女長に渡した、聖竜滅殺の剣ではありませんか。巫女達を欺いて偽物を返したのか、転送で奪い取ったのか。何しろ、宜しい物では御座いませんぞ。


「進むわよ、ナベ」


 ……ティナ、お前もか。

 振り向くとフード付きの黒いコートを羽振り、小さいドクロが連なったネックレスをしたティナがいた。どういうつもりだ。

 更に、何故か眼鏡がサングラスになっていやがる。ダンジョンの中じゃ、全く無意味だろ。おしゃれのつもりか。


 アンドーさんはジャージのままだな。

 でも、こいつ、性格が悪魔だからな。

 ニヤリと笑う仕種なんか、サタンそのものと思って間違いない。若しくは暗黒神だ。



 やられた。

 完全に嵌められている。こいつら、俺を騙してたな。


 聖竜さんが助けてくれるのだろうか。それを祈ろう。

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