竜と対面
ダンが立ち上がる。
「では行くぞ」
「えっ、もう行くの?」
俺、村人服でナイフのみだぞ。
それどころか、アンドーさんなんてジャージだよ。体育館で滑ったただけで穴が開く代物だぞ。
俺の発言は無視され、アンドーさんが指を鳴らし、それからダンの指先から紫の光が出る。
俺たちは紫光の箱に囲まれ移動する。
たぶん、アンドーさんが自分の領域とかいう場所から俺達を移動させ、更にダンが転移魔法を唱えたのだと思う。
でも、転移先は分からない。
箱が消えると、ほの暗く湿った場所に立っていた。
臭い。動物園の臭いだ。
耐えきれないことはないが、ちょっと嫌な気分だ。
床は石材か?
綺麗に正方形に整えられた石が敷き詰められている。小学生なら境目を踏まないようにタイルを一歩ずつ歩くような、謎遊びをしてしまえる大きさだ。
明かりは所々に立っているポールの先から出ているが、前も左右も奥に行くほど暗くなり、先は真っ暗で見えない。
なので、広さは分からない。分からないが広そうだ。
天井も光が届いてなくて確認できないが、それほど高いのだろう。
後ろを振り向くと大きな扉がある。これを進むのか、それともこの部屋を探索するのか。
「この扉を開けたら良いのか?」
「それじゃ、ここに来た意味ないでしょ。奥にいるよ。そして、見てるよ」
えっ、どこ? 俺は暗闇に目を凝らす。
眼鏡を掛けたままのティナが奥を指してくれるが、全然分からない。
「あそこだよ。ほら、眼が光ってる」
俺はティナの指先に沿って視線を辿るが、全く見えない。
どこだよ。
流れ星を探しているみたいだ。
シチュエーションは全くロマンチックではないな。
「進むぞ」
ダンが言いながらまっすぐ歩み始めた。
歩みとともに前方の明かりが付き、その分、後ろの明かりが消える。10歩も進むと後方の扉が見えなくなった。
なんだ、この灯り。
真っ暗じゃ困るだろうって、このダンジョンを作った奴の親切心か。
なら、全体を明るくしろよ。
俺はダンの真後ろから続く。
お化け屋敷に入った気分だ。何が暗闇から飛び出てくるのか、心臓がバクバクドキドキだよ。
すまない、ダンよ、そのまま俺を守る壁になってくれ。
更に俺の背後にはティナとアンドーさんがいる。
「贅沢な護衛ね」
ティナが笑いながら言う。
そう、俺を守るトライアングルもしくはデルタの陣が出来上がっていた。
みんな、優しい。守ってくれていると理解するぞ。
「そろそろだな」
ダンが歩みを止める。と同時に、
グルオオオオオオオオオオオオォ!!!
とてつなく大きな重低音が響く。風圧で床の埃が舞う。
絶対にこれはドラゴンだ。俺はすぐに確信できた。
「姿を見せろ、無礼者」
アンドーさんが指を弾くと、上方に照明が灯る。
無礼者はどちらかと言うと突然侵入している俺たちなのは秘密だ。
向こうも突然過ぎて驚いているだろう。
カレンちゃんに手を出したためだ。だから許してくれ。
アンドーさんが出した光に目が慣れると、そこには想像通りのヤツがいた。
でかい!!
頭から尾まで学校の校舎ほどある体が見えた。高さもそれくらいか。
神殿で見た像よりもはるかに大きい。
首を持ち上げ俺たちを見ているが、体は横向きにして寝そべっている。
爪もでかいし、鋭いな。あんなのに当たったら一撃死だわ。
いたのは、白いドラゴン。スードワット様だな、間違いない。
こんなに簡単にボス戦の所まで来れるんだな。
神様、恐るべし。
「野良じゃない。でも、知らないヤツの」
アンドーさんが呟くように言う。
どこにそんな情報を得るところがあったんだろう。
竜の意識を読んだのか。
「了解したわ」
ティナがアンドーさんへ返事する。
そして、紙をどこからか取り出す。
しばらくすると、その紙が自然に風に乗りドラゴンの方へひらひらと飛んでいく。
魔法だろうな。
ドラゴンの付近までそれが行ったのを確認して、ダンが俺たちを纏めて紫光の箱で転移させた。




