作戦会議
俺たちは丸テーブルを前に椅子に座った。
「さて、作戦会議始めまーす」
ティナの号令で、紙が机の上に出て来る。
「これがこの街の上からの図面でーす」
「その眼鏡と口調はなんだよ。冗談やってる場合じゃないだろ」
俺は本題に入る前にティナに指摘する。
三角形に尖った感じの眼鏡なんてアニメ以外で付けて奴を見たことないぞ。
「遊びにしなきゃ、怒りで途方もないことにしちゃうかもよ。この街ごと粉々に吹き飛ばしてもいいのよ」
「……そうか」
でも、それってカレンちゃんを元に戻すという目的を忘れていないか。大丈夫だろうな。
一人を救うために全体を壊すのはもっとダメだろ。
「以後、ナベ伍長は無駄な発言を慎んで下さーい」
誰が伍長だ。
「調査の結果、この街の地下に迷宮が発見されまーした。これがその立体図でーす。総延長60kmの大型ダンジョンでーす。分岐を除いた実際の走行距離は5kmくらいでーす。この中に喧嘩を売ってきたクソ野郎様がいまーす」
机の少し上にホログラムのように立体の迷路が出て、ゆっくりくるくる回っている。迷宮は植物の根っこみたいに分岐が多い。
このダンジョン構造はキラムに向かう途中でティナが調べていた情報だろうか。ダンジョンあったよね的に喋ってた様に記憶している。
「入り口はここか」
ダンが赤鉛筆で紙の地図の方に丸印を付ける。
一番大きい建物の真下だな。お城か宮殿があるところか。
竜の神殿でないのが不思議だが、敢えての偽装だな。
ガインじいさんが見付けられなかったはずだ。
「そうでーす。しかし、今回は一気に迷宮の最深部の大部屋に飛びまーす」
地図いらねぇじゃん。ダンもビックリしてティナを見る。
「と思ったのですが、ジワジワいじめたいと思いまーす」
お前の無駄な発言も慎めよ。
「任せて欲しい」
アンドーさんが心強く言う。
「マグマを迷宮の全域にゆっくり転送。24時間掛けて充満」
えげつない案だな。
さっきの我を忘れて言ってたセリフよりはマシだけどな。
ほんと、何をする気だったんだよ、さっきのは。
「アンジェ大佐の案では、攻撃されている認識を持たせずに敵を全滅させてしまいまーす。却下でーす」
「では、迷宮に住んでいる全ての者を同時に足から1cmずつ切断していけば、悲鳴や嗚咽が迷宮内に反響して、さすがに分かるだろう」
何言ってるの、ダン?耳を疑ったよ。
それこそ何が起きているか分からないぞ。
「気持ち悪いので却下でーす。ダン中尉に謝罪を要求しまーす」
「すまない。ティナ参謀の意見を聞きたい」
「半数の生物を無差別に殺してから脅して、入り口に来てもらい、反省してから死んでもらうのはどうでしょーか?」
「一々問答が必要だから却下」
大丈夫か、こいつら。
その後も幾つか案が出るが今一だ。
ダンジョン内の生物の皆殺しを前提に話し合っている。
俺は痺れを切らして発言する。
「最深部に一回飛んで、今からぶっ殺すって竜に宣言してから、入り口から攻めたらどうだ?俺たちが見えてるんなら、進む程に段々怖くなるんじゃないか」
俺の意見に、ティナの眼鏡のガラスが光った。
絶対、魔法で光らせたな。遊び過ぎだろ。
「それ、グッドアイデアでーす。邪魔する奴だけ、ぼっこぼっこ、ざっくざっくにしまーす」
表現は可愛いが、リアルにボコボコ、ザクザクしたら気持ち悪いんだがな。
「うむ、素晴らしいな」
「で、本当にこの大部屋にボスはいるのか?」
「いまーす」
何とか細胞はありまーすみたいな口調は止めろ。
「分かった。で、カレンちゃんはどうやって戻すんだ?脅したら戻してくれるのか?」
「顔は戻した。羽根も生えた。大丈夫」
アンドーさんがあっさり答える。
「えっ。もう終わってるの?」
「保護と序でに。今は寝てる」
今まで苦労していた手続きとかはどうしたんだよ。もう形振り構わずなのか。
「じゃあ、別に迷宮に行かなくていいじゃん」
「舐めたヤツにはお仕置きが必要でーす」
そういうことなの?もう無駄な戦いでしょうが。
「カレンの件について、勝手に運命を変えたことに事後承諾を得たいこともあるのだ」
事後承諾を得たいのに殲滅戦をしようとしてたの?
死人に口無し狙いなのか。
「承諾は欲しいでーす。借りは作りたくありませーん」
頭、痛くなるな。
聖竜は神じゃないなら、承諾得られないだろ。
他に何か考えがあると信じるぞ。




