運命
俺が声の元を探している間にカレンちゃんが変に片言で言い終え、足を閉じて手はお臍の前、そんな状態で立っている。
肌も髪も蝋細工のようにレモン色になり、そして艶が出る。
カレンちゃんの体全体が小刻みに動く。
額とか関節と関節の間とか、絶対にそこは動かないだろうという所さえ大きく波打ち動く。顔が膨らみ始める。
あっ、この眼は蜂だ……。
これ、もしかして、蛹化か。
そして、殻みたいな体に縦ヒビが入り始める。
えっ、もう羽化するのか!
心の準備出来てないぞ。
俺だけでなく、たぶん神様たちも。
「アンジェ!」
ティナが指示する。
同時に、アンドーさんが指を鳴らすとカレンの体が消える。
「大丈夫。私の領域で保護した。ここも別領域に入れた」
領域の意味が分からないが、アンドーさんが支配する空間って事か。
とりあえずは安心していいんだな。
「意識がある状態で蛹になるのってレアケースでしょ?」
真剣な顔でティナが二人に尋ねる。
「珍しいな。眠った状態でなるものだ。ティナを女王蜂と潜在意識で認識していたのが原因の一つか。しかし、羽化が早すぎる」
「やられた」
アンドーさんに続いて、俺も口を挟む。
「『お前は虫』って頭の中で声が響いたぞ。お前らにはなかったか?」
「ない。呪詛?」
「かもね。私にも聞こえなかったから、カレンちゃんとナベを狙ったのかしら」
「俺達には呪詛が弱すぎて気付かなかった可能性もある」
はっきりくっきり聞こえたじゃん。どれだけお前らは鈍感なんだ。
攻撃されても気付かないって逆に不便だろ。
あっ、『攻撃』されたのか。たぶん、そうだな。
「弱いのを狙ったのかもね」
「それもあるか。ナベは資質的に獣人化はしないのが幸いしたな」
うわ、虫と限定的に言っていたから、俺も頭がセミだとかコオロギとかになっていた可能性もあるのか。
怖すぎ、嫌すぎ。
どうせなら、せめて可愛らしいコアラとかインコとかにしておいて欲しい。
いや、すまん、カレンちゃん、君の事を可愛くないと言っている訳ではないんだ。
「上からの監視を警戒して魔力を余り使ってなかったのが裏目に出たね。結界を張っておけば良かった」
「うむ、監視がまだ残っていたというのが真実だな。フローレンスが噛んでいたかもな」
ダンが言う。いつも通りの口調だが、少し目が厳しい。
確かに巫女長の報告がなされた結果かもしれない。
「誰かがカレンを蜂にしたので間違いないか?」
俺はダンに状況確認を行う。
「そうだ。直接的には聖竜とかいう者の仕業だろう。キラムの祠での件を咎めたのだろう。つまり、俺たちを潰すために。加えて、恐らくは彼女の運命を変えさせないためという意思もあるか」
キラムの件は分かる。俺達が悪い。
俺達というか、ダンとアンドーさんが悪い。
カレンちゃん本人に罪はないが、まぁ、一緒にいるカレンちゃんを痛めて精神的な辛さを与えるという罰を受けたのだとすると、動機としては理解できない訳ではない。
これは、あくまで二人への罰で、その二人が解決に関しての責任を取れば良い。無論、罰を与えた方にもその責任を負う必要があるだろう。
でも、ダンの言う後半の部分は何のことだ。
そもそも、キラムに行かなくともカレンちゃんは虫になっていたのか?
「運命?」
「蜂の頭を持ち、死ぬ事だろうな」
「どんな運命だ、それ。何の意味があるんだ」




