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モウスグナルヨ

 さっき昼飯を食べたばかりなのに、俺たちは大部屋で軽食を出して寛いでいた。

 カレンちゃんのご要望だ。彼女の食欲は収まることを知らない。


 俺はベッドに寝転んで、お菓子を手にしている。

 夜はティナが使っているベッドらしいが、許可は取っている。毛布からほんのり漂う女性の香りがちょっと股間的にヤバい。



「カレンちゃんは魔法を勉強したいのね」


 ティナとカレンちゃんが会話しているのを横目にビスケットをかじる。


「そうだよ。ティナとアンジェに教えてもらうんだよ」


「私もアンジェも厳しいわよ」


「カレン、頑張るもん。頑張って、いっぱいご飯出してお母さんとお父さんとアンナに食べさすの」


 それは大魔法の類いではなかろうか。

 簡単にはできないだろ。


「ナベと学校に行く?最初から教えてあげてもいいんだけど、基礎も大事かな」


「えー、そうなの?」


 ちょっと俺を見るカレンちゃん。


「ナベ、学校ではおならしない?」


「人前でするわけないだろ」


 アンドーさんが無言で俺を見て、指をボキボキ鳴らしている。


「あれは仕方なくですから、アンドーさん。……許してください…」


 ってゆーか、お前の自業自得だろうが。



「学校って何年も行くんでしょ?」


 カレンちゃんがティナに訊く。


「どうなんでしょ。ダン、分かる?」


「うむ。どんな学校かにも依るが、実力次第ではなかろうか。文字くらいは覚えないとな、ガハハ」


 ダンの言葉を受けてカレンちゃんが言う。


「一年くらいでいいかなぁ。ティナとかは来ないんでしょ?」


 一年か、少し長いなぁ。

 でも、文字が理解できるようになるみたいな、認識に関する魔法は怖い気がするしな。


「ん、そうねぇ。学校には行かないかなぁ。でも、一緒には暮らそうかな」


 あっ、そうなの。

 俺が学校に行っても朝と夕食は保証されるのか。良かったよ。

 時間的な、というか衣食住に関する問題は解決した。



「ティナは家には帰らないの?」


「んー、まだいいかな。帰らないと思うよ」


 こいつらにも家ってあるのか。

 俺はダンを見る。

 あっ、こいつは嫁さんがいるから帰る所はあるか。



「アンジェは?」


 カレンちゃんがアンドーさんに尋ねる。


「気が向けば」


 お前にも帰る所があるのか。

 カレンちゃんにも家族がいるから、戻る場所が無いのは俺だけだな。

 寂しいな。



「カレンも魔法が使えて大人になれば、村に帰るよ」


 うん、獣人化も何とかしてだな。でも、


「大人にならないと帰れない?」


 俺はカレンちゃんに質問する。

 もしも帰れるなら、子供のままでもいいんじゃないかな。


「私、獣人だから。迷惑掛かるよ。だから、アンナも大人になって結婚していたら帰るの」


 そういう事か。アンナはカレンちゃんの妹だったっけ。

 なかなか考えているな。


 情が深まっていたたら、更に子供なんかがいたら、少なくとも離婚しにくくなるっていう計算か。別の家族として影響を受けにくくなるのかもしれない。


 もし迫害されたとしても、家族でどこかに逃げればいいだろうし。今のカレンちゃんの親二人、子供二人よりは生き残り易いんだろう。カレンちゃん、とても強いから森の中でも家族で暮らしていけそうだし。


 というか、女のしたたかさって、こんな小さい年頃から出るもんなんだな。結婚してしまったアンナちゃんの旦那さん的には晴天の霹靂になってしまうな。結婚してしまえば勝ちみたいなものが、この世界というか地域に根付いているのかな。



「じゃあ、カレンちゃんもそれまでに頑張らないとね」


 ティナの言葉に、カレンちゃんが大きく頷く。


「大人になるって楽しみだよね。色んな事が出来そう」


 カレンちゃんが続けて、そう言った瞬間、動作を止める。


 なんだ?




『虫。お前は虫』


 突然、野太い声が響いた。

 どこから?俺は部屋の中を見渡す。

 神様連中は普通だ。むしろ、俺の様子を怪訝な感じで見てくる。


 幻聴?まさかな。




「モウスグナルヨ」


 カレンちゃんの声がした。

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