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カレンの覚悟

 宿屋に戻る途中に、カレンちゃんがお腹が空いたというので食堂に立ち寄る。


 昼の混んだ時間を過ぎているので、客は疎らだ。

 俺たちは年季の入った木製の丸テーブル席につく。座ると椅子が軋む音がした。

 すぐに注文取りが来て、お薦めの鳥料理を人数分頼んだ。


「シャールを出るの、ナベ?」


 カレンちゃんが料理を待つ時間潰しに俺に訊く。

 さっきのギルドでのやり取りで知ったんだな。


「まだ決めてないけどね。近くに良い街があれば、そこにしようかな」


 聞かれてないから俺は理由を説明しない。


「ここよりも大きいところね。どこにしようかな。カレンちゃんの村よりも向こうに一つと、川をずっと下ったところに大きいのがあるかな」


 ティナが言う。最初にここに来たときのマッピング情報を参照してるのか。


「カレンの村より向こうの所は、山をたくさん越えるよ。違う国になるよ」


 異国か。まぁ、そっちでも良いかもな。


「ナベは一人で旅できるの?準備してるの?」


 は?カレンちゃん、もしかして、俺だけが違う街に行くって思ってるの?


「カレンちゃんもだぞ」


「えっ、なんで?」


 いや、むしろ、お前が俺だけだと思った方が謎だぞ。


「カレンはこの街、好き?」


 アンドーさんが訊く。


「んー、この街というか、皆がいるならどこでも楽しいよ」


 もちろん、その皆の中に俺も入っているだろうな。

 頼むぞ、カレンちゃん。


「でも、ローリィが悲しむね」


 カレンちゃんがぼそっと言う。そんなに接触ないんだけど、気にするか。


 まぁ、俺も寂しい気がしないでもない。あと、ガインじいさんとは会える機会がなくなるか。また、他愛もない下ネタとかで盛り上がりたいところだ。



「ナベは冒険者になりたがっていたから、強くなるために一人で武者修行に行くのかと思ったよ」


 そうか安心したぞ。俺だけカレンちゃんの中でのけ者にされているかと心配したわ。



 ここで皿に載せられたガチョウくらいの大きさの鳥の丸焼きが運ばれる。五人前だと1匹丸々なのか。


 ティナがナイフとフォークで綺麗に捌いてくれた。その貴族風の服は何だったんだろうな。俺やダンがした方が相応しいと傍目からは見えるだろう。

 気にする人間はいないけどな。


 味はこってりして良いが、羽根の部分は小骨が多いな。カレンちゃんが首の部分を切ったのをしゃぶっていたが、食べられる部位なのか。



「カレンちゃんは強くなりたいんだったな?」


 俺はある程度腹が満足したところで、話し掛ける。

 カレンちゃんも水を飲んだり口を拭いたりしていたから、もうそろそろお腹が膨れたのではないかな。

 少なかった他のお客も帰って、残るのは俺たちだけだ。


「うん、昨日も言ったけど困ってる人を助けたい。それとティナとかアンジェみたいに魔法使いになりたい」


 ダンの名前が出てこないのは見た目が戦士そのものだからかな。ダンもかなり凄い魔法使いなんだと思うけどな。

 いや、神様を魔法使い呼ばわりしてよいものなのか。



 カレンちゃんが、ちょっと目を伏せてポツリと言う。


「……私を置いて……どこかに行ってもいいよ」


 何を言い出すんだ、カレンちゃん!びっくりだよ。


「ナベ、神殿の人にカレンを渡すように言われたんでしょ?だから、他の街に逃げないといけないんじゃない?」


 口調はそんなに変わってないけど、強がりだと感じる。


「いんや、言われてない。俺の都合だよ」


 確かに預けた方が良いとは言われたが、街を去る理由は違う。


「ダンが変な剣を拾って、その所為だよ。聖竜が怒るといけないから避難しようって訳だ」


「そうよ、カレンちゃん。心配しないで。私たちは仲間よ。離さないわ」


 ティナも優しく包み込むようにカレンちゃんに語りかける。


「でも、巫女のおばあさん、カレンが獣人だから寄越しなさいって言ってた……。ナベもなかなか建物から出てこなかった……」


 カレンちゃんが下を向いたまま喋る。

 巫女長はそんな言い方をしてなかったと思うが、悪い感じに取られたか。


「楽しかったよ、みんな。お別れしても忘れない」


 ちょっと沈黙。どうしよう。

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