ローリィ、号泣
巫女さん、メリナの刺すような冷たい視線もあって気分が沈む。
キラムの祠からの盗み疑惑、悪魔の言語を解すること、カレンちゃんの今後についてと、あっちの立場からすると俺達はかなり危ない人物だろうな。
あのメリナからは明らかな強い敵意を受けていた。
誤解なんだが、あの神様連中の正体をばらすわけにはいかないし、放っておくしかないか。
俺は廊下を一人で歩く。
そんな気持ちも外の陽に当たって忘れる事ができればいいな。
アンドーさんに気合い入れの蹴りでも入れてもらうか。
いや、そんな性癖みたいなものは、俺には断じて存在しない。
池の側でカレンちゃんが石投げして遊んでいた。
どこまで遠くに投げられるかをしてるんだな。
相手はティナだ。
なんてことしてるんだよ。ここは神殿だぞ。
ほら、行き来してる巫女さんたちも怪訝な顔付きで見ているだろ。不信心もここに極まりしだ。
「見て見て、ナベ。カレン、こんなに投げられるよ」
カレンちゃんが投げた石は弧を描いて池の真ん中くらいに水飛沫を作る。
……とんでもない飛距離だな。
俺が投げても半分も届きそうにない。才能の差なのか、魔力の有無の為か。
カレンちゃんを少しだけ誉めてから、離れたところで座っていたダンに先程の巫女長とのやり取りを伝える。
アンドーさんも傍にいた。
「ガハハ、そうか。大変だったな」
ダンはそれだけ言ってのそりと立上がり、俺の背中を叩く。
軽く痛いんだけどな。少し楽になる。
いや、そういう性癖でもないから。
「街を出ろ?何様」
アンドーさんは不遜な感じで呟いた。
そう言うと思ったよ。
だから、お前には相談しないぞ。
いや、アンドーさんは言葉だけで実は優しいんだよな。
街を出るかどうかは結論を出していない。
宿屋とかでゆっくり皆で決めたい。
どこかに行くにしろ、シャールくらい大きい街じゃないと不便そうだし、カレンちゃんや俺が仕事を覚えるための施設もなさそうだしな。
カレンちゃんの村のポールみたいに、草むしりと野菜の窃盗人生は避けたい。
神殿を出て、俺たちはギルドで依頼達成の報告をした。
受付は変わらず、ローリィだ。
毎日仕事してんのか。ブラックだな。
でも、客というか冒険者は、今までに俺たちしか見てない。暇だからいいのか。
「あなた達に頼んで良かったです。さすがです。嫁500人持ちの方は必死感が違いますね」
余計な一言が多いな。
それにダンは特別に働いてないぞ。
流石だったのはアンドーさんだ。一瞬で仕事を片付けたんだぞ。引っ越し業者なんかが知ったら、引く手あまただ。
俺の日本の部屋も片付けて欲しいぞ。
「で、次の依頼なんですけど、これなんか――」
精算が終わってローリィが話をするのを俺が止める。うきうきした表情のところ、申し訳ない。
「すまない。事情が出来て、シャールを去るかもしれない」
俺の言葉にローリィは顔をしかめて泣きそうになる。
「そんな、私の魅力では足りないのですか!もっと胸の谷間を強調した服を着ますから!!」
いや、お前、谷間というか平原しかないだろ。寄せて上げても空気しか存在しないだろ。
「また来たときに受けるよ。ガインじいさんにもよろしく」
恨むなら巫女長を恨むのだ。
オンオン泣くローリィに少しだけ、ほんの少しだけ後ろ髪が引かれる思いだったが、俺たちは去る。
扉の鐘の音が寂しい。
「お別れの駄賃は、ないのぉー!?」
なんか扉の向こう側から声が聞こえた。本当に去るとしても、それだけ元気なら大丈夫だな。




