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巫女長の部屋

 俺たちは巫女長に連れられて、最初に案内された建物に戻る。入り口で巫女長が振り返り、話し掛けられた。


「部屋が狭くてね、申し訳ないけど一人か二人しか座れないのよ」


「分かったわ。じゃあ、ナベにお願いするね」


 ティナからご指名を頂いた。俺でいいの?文字読めないんだけど。まあ、なんとかなるか。


「分かった。行ってくるぞ」


「あそこで待ってる」


 アンドーさんがこの前に魚のスープを飲んだ食堂兼お土産屋を指差す。

 あんまり美味しいものは無さそうだったから、特に羨ましくないな。

 俺だけ仕事かよ、とかは思わない。



 一階の奥にある部屋に案内される。

 その扉は巫女長ではなく、別の巫女さんが開けてくれた。


 俺は促されてから織物で出来たソファに座る。



「さて、こちらが依頼完了の書類ね。私のサインを入れておくわ」


 巫女長がお土産屋で売っていた、あの鉛筆みたいな筆記用具で自分の名前をサインする。

 しかし、全く読めないので合っているのか分からない。



「で、次の用件があるのよ」


「仕事ならギルドを通してもらいたいです」


 ローリィに義理があるわけではない。

 ダン達に無断で仕事を受けるのもどうかなと思ったのだ。


「いえ、仕事でなくあなた達のことよ」


 俺たちの?

 俺は黙って、続く言葉を待つ。



「街から離れて頂けないかしら?あなた達が悪い訳じゃないのよ。ほら、スードワット様って基本寛容なのにたまに頑固になることがあってね、さっきの剣で収まらなかった時にあなた達を捕まえろとか、ひどいことをしろとか言い兼ねないかしらと思ってね」


 事態が悪化する前に逃げろってことかな?

 優しさなのか厄介払いなのかは表情からは読めない。

 巫女長さんはずっとニコニコしてるんだもん。


「そもそも、アンドーさんとダンは何も盗んでいないですよ?」


 とりあえず反論から入っておこう。


「んー、それを言うとね、さっきの剣は何なのとかなっちゃうから言わないでね。盗んだということではなくて、そのお墓と言われている所に『無いといけないもの』が無い事をスードワット様はお気にされているのかもしれないわ」


 ガイコツのことかもしれないなぁ。


 でも、あいつ、ダンの子供の世話係として任命されたばかりだからな。また連れて来て封印を施すのも残酷な気がする。


 それにアンドーさんの魔力注入で金色に輝いていたぞ。

 聖竜もアレじゃないとか言い出すとめんどくさい。


「万が一の事を考えているのよ。分かって頂ける?ほら、さっきのメリナさんなんて、スードワット様がやれと言えば、あなた達を襲いかねないのよ。いい娘なのだけど、スードワット様を信じる気持ちが強いのよ」


 こわっ、狂信的。テロリストの鑑だな。

 勘弁してくれよ。


「巫女長、あなたは?」


「私もスードワット様を信じているけど、他人を襲いたくないわ。私は他人を助けるために巫女になったのよ」


 そこまで話したところで扉をノックする音が聞こえた。

 巫女長がそれに返すと、倉庫の確認を終えた巫女さん、メリナが入ってきた。



「確認終わりました。掃除は完了しています」


「そう、ありがとう。メリナさんもこちらにどうぞ」


 報告を終えて踵を返そうとしたメリナを巫女長は止める。

 メリナは素直に俺の隣に姿勢よく座る。スカートのお尻側に皺が寄らないように少し手で伸ばしながらゆっくりと着席する姿とか、妙に物腰が洗練されている気がした。

 でも、こいつはアサシンです。



「ナベさん、『竜の尾の一閃』はどこでお気づきになられたの?」


 ん?池を割った、あの魔法の事だな。知るも何もあなたが唱えてた一節じゃないか、巫女長様。


「巫女長が詠唱の最後にそう言っていたので、それで術の名前が『竜の尾の一閃』だと思いました」


 巫女長は少し驚いた様子だった。

 俺、おかしなこと言ったか。

 横にいるメリナを確認する。

 彼女は無表情で正面の巫女長の方を見ていた。


 メリナさん、睫毛が長いな、なんて今の話題と関係のないことを思う。こいつが狂信者であることを忘れるな、俺。

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