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アイスをあげる

 巫女長の言葉に皆もカレンちゃんを見る。

 急に注目を浴びたカレンちゃんは、キョトンとした顔になりつつも、慌てて日陰で放置されていたお盆を手に取る。


「これ、アンジェから二人にって。とっても美味しいよ」


「まぁ、ありがとう」


 巫女長は結露して少し水滴が着いたカップアイスを一つ盆から拾う。


「でも、何かしら?冷たいのね」


 巫女長が蓋を開け、カレンちゃんが木のヘラを渡す。


「これで食べるのね?」


「うん、そうだよ」


 カレンちゃんが満面の笑みで答える。自分で食べる訳じゃないけど、美味しいものを他人に教えるのも楽しいもんな。



「ダメです!巫女長、毒かもしれません」


 ちょーきつい言葉が巫女さんから出される。

 そういう発想も分かるけど、カレンちゃんからだぞ。

 さすがにこんな小さい子が毒を盛るなんてことしないだろうし、俺たちもをさせないぞ。

 これで、巫女さんには現時点でかなり強く警戒されているのが分かったな。


 それにしても、カレンちゃんが悲しい顔をしているだろ。もっと言葉を選べよ。



「まぁ、メリナさん。なんてことを言うの」


 メリナのそんな言葉に全く聞き耳を持たず、巫女長はヘラにアイスを載せて口にする。


「……」


 目を瞑ってゆっくり咀嚼する巫女長。

 その表情を下から見詰めるカレンちゃん。


「こんなに美味しいものが世の中にあるのね……。教えてくれてありがとう、カレンさん」


 巫女長は膝を曲げカレンちゃんの目線に合わせて礼を言う。


「メリナさんもお食べなさいな」


「分かりました」


 巫女さんはもう一つのカップを受け取り、一掬いしたものを口の方へ運ぶ。

 口の前で一旦手を止め、臭いを嗅ぐ。

 それから、小さく口を開けて、その中にアイスを入れた。


 舌の上でアイスを融かしているのであろう。少しばかり頬っぺたや唇の周りが動きつつ、やがて喉を通った。


「どうですか、メリナさん」


「信じられないくらい甘いです……」


 巫女さんは二口目に入り、ゆっくり飲み込む。

 続けて、同じように三口目。



「巫女長、これは売れますよ!」


 巫女さん、何を言い出すかと思えば商売事ですか。


 そもそもどうやって作るのか知っているのか。……いや、巫女長さんはカレンちゃん愛用の獣人化ストップ軟膏を舐めて、原料が何たらとか言っていたな。

 そういう成分を解析する魔法があるのか。


 違う、そういうことじゃない。

 この俺たちを罰しようかどうかという状況で商売が頭に浮かぶ時点でおかしいだろ。



「カレンさん、どうもありがとう。こんなにも珍しくて美味しいものを頂いて、なんてお礼をしたらいいのか分からないわ」


 巫女長は食べ終えてからカレンちゃんに改めて礼を言う。


「アンジェからだよ」


 そう言ってからカレンちゃんはアンドーさんの元に行く。

 アンドーさんが口を開く。


「詫び」


 キラムの祠の封印を解いた詫びでアイスを出したという意味か。


「やはり墓荒らしをされたのですか?」


 巫女さんが鋭さを少し込めた口調でアンドーさんに問う。

 しかし、カップアイスを持ったままで今一な感じではあるな。


「まあ、メリナさん。祠のどこにお墓があったのですか?」


 巫女長の言う通りだ。

 俺はビデオを見て地下に神殿みたいな所があることを知っているが、地上には確かに一面草っ原で墓はなかったな。

 それを受けて巫女さんは黙る。



 アンドーさんがもう一度口を開く。


「私を疑った詫びは?」


 そっちかよ!

 お前、イケシャーシャーとよく言えたな。

 そもそも、封印を解かなきゃ聖竜さんも絡んできてないだろ。


「疑ってません」


 巫女さんも退かない。

 それも無理があるだろ。

 アンドーさんと巫女さんの間に不穏な雰囲気が漂う。


「あん?」


 やめろ、アンドーさん。

 神様だったら、もっと慈悲の心を持てよ。



「すみませんね、皆さま。こちらの事情でお手間とお時間を頂きまして」


 場を納めたのは巫女長だ。


「メリナさん、お掃除が終わっているか見て来てください。私はこの方々と共に先に戻って、依頼完了の手続きを致しますね」


「はい、巫女長」


 言葉と裏腹にほんの少し不満げな雰囲気を残しつつも巫女さんは倉庫の地下に向かった。


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