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魔剣を渡す

 巫女長さんが言葉を翻して盗賊として罰せられるかもとの思いもあって、少し緊張気味の俺は巫女長と巫女さんがやって来る方向を見ない。

 『来たのを分かっていましたよ』なんて素振りなんか、余計に不信感を持たれてしまいそうだからな。


 少し溶けて、ちょうど良い感じの固さのアイスを口に入れる。



 アンドーさんが教えてくれてからしばらくして、二人がこちらに歩いてきた。先頭は巫女さんで、巫女長はカレンちゃんに手を振りながらやって来る。



「メリナさん、この箱かしら?」


 巫女長は1つだけ残されて地面に置かれた木箱を見ながら言う。


「はい」


 巫女さんは短く返事した後に、こちらに向いて疑問を口にする。


「他の箱はどう致しましたか?」


「片付けた」


 巫女さんの問いにアンドーさんが倉庫を指しながら答える。


「あれだけの量を?」


「魔法。使っていいって言った」


 確かに言ったな、巫女さん。

 使っても見てないってことにするって言った。使って良いとは一言も言ってないけど、そういう意味ですよね。

 お城からの監視はアンドーさんがいつも通り、何とかしているだろうし。


「そうでしたっけ?」


 こいつ!

 惚けた顔で巫女さんは返す。

 勝手に許可したなんて巫女長に知られるとまずいのか。保身に走ったな。


「よろしくてよ、メリナさん。それよりも、こちらを確認しましょう」


「はい」


 巫女さん、メリナは膝を屈めて箱の蓋を取る。

 最初に目に入るのは、やはり一番上に鎮座する黒い剣だ。



「これですか?」


「はい。こちらの目録には記載が御座いません」


 メリナは箱の横に貼り付けられたメモを巫女長に見せる。


「分かりました。武具の関係はそこの倉庫には無いはずですしね。皆さま、ありがとうございました。我らが主、スードワットの勘違いだったということで、これを彼に捧げます」


 どんな勘違いだよ。

 すげー強引だけどいいのか、巫女長フローレンス。

 聖竜を舐めている感じがアリアリだぞ。


「それが竜の求めるものなら良いがな」


 なんでダンが偉そうなんだよ。


「これで焼かれなくて済むのかしら。良かったわね、ナベ」


 ティナよ、焼かれる前提で聞くなよ。それに返答に困る。


「えぇ、私たちもそんなことをしたくないわ」


「巫女長、スードワット様のご判断がまだ」


 巫女さん、折角巫女長さんが丸く収めてくれそうなのに注進は止めてください。

 もしかして、その竜の判断次第ではやむ無し処刑ということなるのでしょうか。



「いいのよ、メリナさん。いい?スードワット様を尊敬するのは当然ですが、自分の意思まで縛られてはならないの。何事も自然体でとおっしゃったスードワット様の言葉を私は一番信じているの。あなた、こちらの娘さんも苦しめたいの?」


 巫女長がカレンちゃんを優しく見る。

 カレンちゃんはアイスを食べ終えても、もの惜しげにヘラをくわえ続けていた。残り香とかを楽しんでいるんだね。


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