表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/123

アイスクリーム

 倉庫に向かって力強い足取りで歩むアンドーさんの背中へ俺は熱い眼差しを送る。

 頼むぞ、アンドー!



 その横で、ダンが巫女さんに言う。


「メリナよ、その箱は確認したか?」


 ダンは俺が最後に運んだ、例の剣が入った箱を指す。


 お前、そんな唐突に言うなよ。あの剣がそこに入っているとはいえ、怪しすぎるだろ。

 またもや『犯人は俺です』って言ってるものだぞ。

 っていうか、完全に確信されていると思うが、アリバイくらい作る努力しようよ。



「まだです。……何か御座いましたか?」


「うむ、ナベが落としたときに中が見えた。巻き物(スクロール)に混じって剣があるのに違和感があった」


 違和感どころか、呪怨を感じたわ。

 一度見たら関節が逆に曲がる呪いとか、即効性が強すぎるだろ。

 呪いってのは、じわじわ効果が出て真綿で首を絞められるようなものでないといけないと思うのさ。


 巫女さんがダンの言った箱を開ける。もう、あの黒い蒸気みたいな、邪悪の塊みたいなオーラは発していない。

 箱を挟んで巫女さんの反対側から俺も中を確認した。


「確かに所蔵リストにないものですね。……魔力は感じないか。只の剣?」


 巫女さんと目が合う。俺に問うのは間違っているぞ。

 そもそも、普通の剣がどんなものかも知らないしな。


「さっきの巫女長さんを呼んできたらいいんじゃないか?」


「お忙しい方ですから。……でも、私じゃ分からないか。はい、行ってきます。休憩を取り終えたら、お掃除の方を再開してくださいね」


 たまに素になるね。バイト巫女の可能性が非常に高いんじゃないか。



 カレンちゃんが歩いて去っていく巫女さんに手を振る。

 と同時にアンドーさんが戻ってきた。


「終わった」


 終わったの?ひょっとして、お掃除終わったの?ひゃっほー!


「えー、もっとお掃除したかった」


 はたきを上下に振りながらカレンちゃんが抗議する。

 階段昇降運動をしていた俺の事も少しは考えて欲しい。



「カレン、よく頑張ったぞ」


 ダンが笑いながらカレンちゃんの頭をごしごしする。

 それいいよな。俺も自然にそういうことをできるようになりたい。でも、どうしても照れ臭いし、恥ずかしいな。



「ここも戻す」


 アンドーさんが指ぱっちんする。二日ぶりの指ぱっちんだ。待ってましたよ。


 そこらに置かれていた、箱や彫刻たちが消える。地下室に転送させたんだな。

 残ったのは、問題となっている剣が入った細長い箱だけだ。


「お疲れ」


 アンドーさんの短い言葉に続いて、更に指の音が響く。

 地面に直接お盆が現れ、その上に、なんとカップアイスが出て来た!

 コンビニでよく見た、青い容器のバニラ味のだ。

 横には紙の小袋に入った木のヘラもある。


 カレンちゃんが見たことないはずなのに飛び付く。

 経験則だな。アンドーさんが食物を出したと勘づいたんだろう。



 倉庫の屋根の下、日陰になるところの石段に座って、俺たちはアイスを食べる。


 うまい!

 ひんやりとして、疲れた体に染み込むよ。

 カレンちゃんも大満足そうだ。一口食べた後に体をぷるぷる震わせて、幸せそうに空を見る。

 それから、少しでもロスしないようにだろう、蓋をペロペロしている。

 それ、万国共通の仕来たりなのか。


「すごいよ、アンジェ!冷たくて甘くてコクがあって、止まらないよ!」


 そうだろうなぁ。俺だってそう思うもん。

 疲れた体の火照りに相まってサイコーだ。



「もっと食べていい?!まだ二つ残ってるよ」


「それはメリナとフローレンスの分」


 そうなの?巫女長と巫女さんに上げるの?何のつもりだ。


「えー、もっと食べたいよ」


「これを」


 アンドーさんが二匙くらい口にした、自分の食べ掛けを渡す。


「いいの?」


「いい。子供は素直に食べる」


 お前も似たような背丈だろ。食べないと大きくなれないぞ。


「ありがとう!でも、やっぱり皆で食べよっか」


 貰ったばかりのアイスをアンドーさんに返して、カレンちゃんはニコニコ笑顔で自分のアイスを頬張った。


 良い子だわ。

 俺はそっと自分のアイスを掬って、カレンちゃんの容器に入れてやった。


「ありがとう、ナベ!」


 まぁな。カレンちゃんが喜ぶ顔を見たいからな。



 ダンやティナも木のスプーンを進めながら、二人で会話しているのが聞こえた。


「さっきのメリナ、気付いた?」


「うむ、相当の力だ。しかも魔力を外に漏れないように制御か」


「だよね。無詠唱で水を生成かな、転送だったかしら」


 そこでティナと目が合う。


「あら、ナベ。気を付けなさいよ、あのメリナって娘なら、ナベなんかすぐに消炭にされるからね」


 それ、あのガイコツの所から盗んだものがなければ焼かれるってことだろ?

 俺が気を付けるんじゃなくて、ダンやアンドーさんが気にするところじゃん。

 スゲー理不尽だと思います。


「あんな可愛い子がいたいけな俺を炭にするはずないだろ」


「私の方が可愛いわよ」


 何を対抗してんだよ。

 まぁ、そんな軽口を叩くくらいには余裕あるってことなんだよな。


「だいたい、今気付いた訳じゃないだろ?」


 そう、絶対にキラムに向かう前に出会った際にその程度は見抜いていたはずだ。


「うーん、今知ったかな。力を測ることは出来るけど、なるべくしないようにしてるから。楽しくないでしょ。ほら、今は魔法を使ってくれたから分かったんだよ」


 楽しむためというのは本当っぽいな。


「カレンも消炭?」


「ガハハ、カレンが消炭にされそうになったら俺が助けてやる」


 ダンよ、俺でも助けてくれるんだろうな。


「ナベ、二人が来る。そこの裏に転移した」


 アンドーさんが少し離れた建家を指差しながら言う。

 人間でも転移できるのかよ。いや、巫女長が凄いんだよな。

 


 そこにある剣で納得してくれたらいいな。

 こんなところで戦闘が開始されるのは嫌すぎるぞ。

 どちらかと言うと、ダンやアンドーさんがあの封印を解いたのが原因みたいだし。

 盗賊に襲われたときとは訳が違う。非はこっちにある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ