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休憩

「空の上から監視してるヤツも、これを見たかな。呪われたかな」


 そう言ってからティナはちょっと目を瞑る。


「うん、もういなくなってるよ」


 ティナは嬉しそうに笑う。これで、後はアンドーさんとかの魔法に頼れるの?俺も嬉しいぞ。

 でも、ちょっと気掛かりがあります。


「そいつ、呪われたの?俺みたいに?」


「ううん。魔力のないナベは呪いの効果も薄かったよ。かなり強い呪いだったから、普通の人間なら一目で瀕死、二目で死亡みたいな感じ。体内の魔力も撹乱するようになっていて、血流が逆流したり、手足の関節が逆に曲がったりとかするはずよ。ナベは体内に魔力の流れがないから、そこまでじゃないね」


 カレンちゃんも死んでただろ、それ。

 ダンめ、そんなものを軽々しく俺に託したのか。



「地下で一回蓋を開けたでしょ?あれで、そいつの注目が行ったね。私が開けたときにガン見したんじゃないかな。かなり面白いことになってると思うよ」


 どうなってんのか、想像したくないな。

 

 ティナと二人で倉庫の外にそれを持って出る。いや、ティナに任せてもいい気がするんだが、重いからな。

 手伝った方がいいかなと思ったのだ、他人の目的に。


 外に出ると、巫女さんが中身を箱の外に貼られたリストと照らし合わせていた。

 俺たちが新しい保管物を持ってきたことに気付いて、軽く会釈してくれる。



「そろそろ休憩にしましょう」


 天使が降臨したような、嬉しいお言葉です。

 休みたい、水分欲しい。


「じゃあ、伝えてくるね」


 ティナが倉庫に戻って行った。



 俺はちょうど良さそうな石に腰掛ける。

 足がパンパンだな。

 揉んでほぐしていると巫女さんがコップを渡してくれた。有り難いが、空っぽなんだが?


「そのままお待ちください」


 黙ってコップを手にしたままでいると、底から水が溢れ出た。

 すげー、便利。そういう魔道具なのか。砂漠でも余裕だな。

 礼を言ってから、それで喉を潤す。冷えていてとても良いです。



「探している物は出てきたの?」


「いいえ。お水はもうよろしいですか?」


「皆の分を用意してくれたら嬉しいかな」


「承知致しました」


 後ろにある木箱から、ポットサイズの陶器製の白い地に金色の模様が入った瓶を巫女さんが運んでくる。

 えー、それに入れるのか?見覚えあるぞ。


「それ、倉庫にあったやつでしょ?使っていいの?」


「道具は使われて幸せになるのです。眠らせておくなんて、可哀相ですよ」


 その感覚は分かるけど、その壺は宝物みたいなもんじゃないのか。巫女さんがいいと言うなら止めはしないけどさ。



 見ていると、瓶の口から水が溢れた。便利な道具だな。俺のいた世界も便利な世の中だと思っていたが、これほどじゃなかった。

 これが一家に一瓶あれば水道管を通したりする必要なんて全くないじゃない。



「あら、水を出してくれているの?」


 倉庫から出てきたティナが巫女さんに話し掛ける。水はまだ口から溢れ続けている。

 が、巫女さんが口を開くと同時に止まった。


「はい。皆さま、お疲れ様でした。あなたも本当に頑張りましたね」


 巫女さんは皆に、それから遅れて出て来たカレンちゃんに向きながら労いの言葉を掛ける。



「水、水」


 カレンちゃん、瓶にまっしぐら。

 俺は手にした空のコップをそこに沈めて、水で満タンにしてから渡してやる。


 良い飲みっぷりだ、カレンちゃん。

 山でお腹壊すよって俺にアドバイスくれたのに、三杯くらい一気に行ったよ。



「メリナさんだったかな?あなたは魔法を使っていいの?街では禁止なんでしょ」


 ティナが言う。

 なんだ、これ魔法だったのか。詠唱がないと道具の性能なのかどうか分からないな。


「神殿の巫女は伯爵様よりご許可を頂いております」


「私たちも使っていいかな?」


 いいともー。って、心で叫びつつ、もう終わった番組を思い出す。小学校の時に風邪で休んだ日にはうどんかお粥を食べながら、うきうきウォッチングだったなぁ。懐かしい。


「私は見なかったことにしますよ」


 俺が下らないことを考えている中、巫女さんは笑って答えた。

 明言してないけど、使っていいってことだよね。

 良かった。もう手で運ばなくて宜しいのね。


「良かったね、ナベ」


 ティナが俺に向けて言う。うむ、見事に見透かされているな。



「あとはアンドーさん、よろしく」


「ナベの分は残す」


 アンドーさんの憎まれ口は言葉だけで、実際には助けてくれる事を知ってるよ。

 もう倉庫に戻って残務に取り掛かる感じだもんな、アンドーさん。頼もしいぞ、サンキュー。

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