お掃除開始
巫女のメリナさんがガチャガチャと倉庫の戸に挿した鍵を回し、俺たちは中に入る。
小さい窓から日が射していたので真っ暗ではなかったが、明るくもない。少し背伸びをした巫女さんが壁に備え付けのランプのネジみたいなスイッチを回して灯をともす。ぼんやりと白く光っていて、恐らくは魔法式のヤツで実際の火ではなさそうだ。
ん?予想以上に整頓されているな。別に掃除するところないじゃん。
「こちらになります」
壁から外したランプを手にして、メリナさんは少し進んだ壁際で言った。壁掛けにも手持ちにもなる優れものだな、そのランプ。
そこには石で出来た下り階段が見えた。転落事故が起きないように降り口じゃないところは柵が立ててある。
メリナさんに促されて、俺たちは階段を降りる。
地下階なので階段近く以外はほとんど明かりが届いていない。
メリナさんのランプが無かったら真っ暗だっただろう。
広さはどうだろう?一階と同じくらいなら、学校の教室くらいかな。
古臭い、カビた匂いが鼻を刺激する。
メリナさんは積み重なった箱の隙間を掻い潜りながら部屋の真ん中に行った。
「この上に明かりがあるのですが、届きますか?」
ダンに言う。しかし、いくら背の高いヤツでも天井までは手が届かないだろう。
ダンが俺を呼んだので、一緒に巫女さんの立つ所に行く。
木箱とか彫像が並んでいるが、埃が上に相当溜まっているな。この掃除は大変そう。掃除機とかでガーと吸い取りたいけど、んなもんないよね。
ダンが屈み、頭を下に向ける。
「ナベ、肩車だ」
えー、なんか恥ずかしいな。
俺はちょっと躊躇しながら首に跨がる。そして、落ちないようにダンの金髪をがっしり掴む。
「では、行くぞ」
すっと俺の体が上がる。ギリギリ手が届きそう。指先を震わせながらボタンを回す。
やば、腕が吊りそう。
そこで気付く。
「おい、俺じゃ、魔道具の起動ができないだろ?」
そう、確かそんなことをティナが言っていたぞ。
俺の小声にダンが返す。
「そうだったな。大丈夫だ。俺がナベの体を通して魔力を送る」
肌の表面を電気が通るようなびりっとした感覚の後に、灯りが無事付いた。
俺を下ろすダンの動作で埃が立つ。
「うまく行ったな、ガハハ」
ダンは満足そうだ。俺も初めての魔力の感覚に満足ですぞ。
あの電気感が魔力ですな。
空から覗いているらしい監視については、上手く誤魔化せているのかな。
「それでは、よろしくお願いします。一旦、ここの物を外にお出し頂いて、私が中身を確認致します」
「ちょっと待って。これ、全部?」
俺は階段を登って戻ろうとした巫女さんを呼び止める。
「はい。中身の確認は私が致しますね」
ひー、普通の顔で二回も言いやがった。
この量を階段で持って上がって、また元の場所に戻すのか。引越業者に頼めよ。
ガインのじいさん、こんなもん引き受けんなよ。
いや、引き受けなかったから、こっちに回って来てんのか。
クソ。
今度出会ったら酒くらい奢ってもらおう。
「じゃ、やろっか。カレンちゃんは埃落としと床をお願いね」
「うん!」
ティナの指示にカレンちゃんが元気に頷く。既に両手には壁に立て掛けてあった箒とハタキが装備されていた。
俺もそっちがいいぞ。二つも同時に扱えないんだから、俺にどっちか渡してくれないかな。
「ダンとナベ、私は運搬係ね」
はい、明日の筋肉痛決定。
それどころか、ベッドから起き上がれないかもな。
朝食のために床を這い擦る俺が見れるね、カレンちゃん、良かったな。くれぐれもゴミを見るような目は止めてね。
「アンドーさんは?」
「アンジェは記録係ね。何がどこにあったかを覚えて」
「了解」
俺もそれがいいぞ。
ちゃんと仕事するから、それをやらせてほしい。
適材適所で考えると、1番非力な俺がその事務的仕事をすべきではなかろうか。




