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なかなかの逸材

「私が差し上げたいのよ。あなたがとても気高い心をお持ちなのは分かりますが、許して頂けないかしら?」


「施しは要らないって訳じゃないわよ。気持ちだけ頂きたいの。それは他に必要な時にお使いになったら」


「率直に申し上げるわね。その娘さん、獣人よ。大変な事になる前に、私の言うことを聞いて」


 おぉ、一目でそんなことが分かるのか、さすがに巫女長だ。

 あの巫女さんも同じように気になる事を言っていたが、ここまではっきりは言わなかったぞ。



「なんで分かったんだ?」


 俺は小声でアンドーさんに尋ねる。


「魔力の質。それでも、よく感じ取った。なかなかの逸材」


 アンドーさんも小声で教えてくれた。

 特に必要がなかった、上から目線での巫女長の評価も加えて。

 逸材ってもっと若い人間に使う言葉だろ。失礼にも程がある。



「カレン、これあるから大丈夫だよ」


 カレンちゃんがポシェットからティナに貰ったナイトクリームを出す。カレンちゃんが貰って以来、毎晩塗っている獣化を食い止める軟膏だ。



「開けて触ってもよろしい?」


 穏和な感じは変わらず、巫女長はカレンちゃんに尋ねる。そして、カレンちゃんの返事を受けて蓋を回し開ける。


 指に軽く軟膏を付けて、巫女長は舐めた。躊躇いなしだったけど、そういうものなのか。

 ボケておられませんよね。


「こんな配合があるのね。どれも貴重な素材ばかり……。いいお薬ね」


 舐めて分かるものなの?年の功は凄いよ。


「うん、ティナが作ったよ」


 料理はできないのに、薬は作れるのかと思ってしまった。薬と毒は使用量の違いってヤツか。言葉に出したらティナに睨まれるよな。

 いや、それ、ティナが作ったんじゃないかもしれない。アンドーさんの下僕みたいな存在がいるのだろう。失礼ながら、ティナの自作なら、変な臭いとどぎつい色になるはずだ。



「ナベ、何を思ったの?」


 ティナの突然の質問にびっくりした。もしや俺の考えを読んだか?いや、誰でもそう思うもんな。ダンが苦笑していたし。


「こんな物が世の中にあるのね。やっぱり外を知らないといけないわ。お嬢ちゃん、ありがとう」


 巫女長はカレンちゃんにクリームを戻す。カレンちゃんは大切そうにポシェットに直した。


「ティナさん、かしら?この薬を作るということは、このお嬢ちゃんの運命をご存知ということですよね?」


 虫の獣人になるよということだよな。


「よく分かるね。まぁ、そうよ」


「私どもにお任せ頂けないかしら?それがお嬢ちゃんにも良いことだと思うのだけど」


「んー、どうでしょね。どこかで保護して頂くっていうことなんだと思うけど、それって本人も幸せなのかしら?」


「街中よりは良いと思うわよ。これは神殿だけの秘密なんだけど、そういった安心して暮らせる場所を用意しているのよ。とても素敵な提案だと思って頂けないかしら」


「そっか、まぁ、頼らないといけなくなったら頼るね」


 ティナの返事に巫女長フローレンスは少し怒気を含める。


「あなた、本当に分かっているのかしら?お若いからどんな事になるのか知らないのではないの」



 それを聞いたカレンちゃんが悲しそうな顔をする。

 巫女長さん、心配してくれているのは分かるけど、少し熱が入りすぎたかな。

 カレンちゃんの様子から、巫女長自身も言い過ぎた事に気付いたようだ。


「あら、ごめんなさいね。心配させてしまいましたね。あなたにスードワット様のご加護有れ。もしもの場合はこちらにいらっしゃいな。ティナさんに連れて来てもらえば安心できるわね」


 カレンちゃんに微笑みながらそう言った。

 指輪はカレンちゃんが巫女長に返した。



 そこに、鍵を取りに行った巫女さんが建屋から戻ってきた。

 そして、近寄りながら俺に言う。


「遅くなりました、すみません。こちらが鍵になります。倉庫にご案内致しますね」


 巫女さん、俺たちの所に来たところで巫女長に気付く。先に巫女長が話し掛ける。


「メリナさん、お務めご苦労様です」


「はい、巫女長」


 巫女さんは少し緊張気味だ。


「今朝、あなたがおっしゃっていたキラム近くの祠を訪問された方々がこちらね?」


 やっぱり竜のお告げとかのせいでマークされてたんだな。

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