巫女長
何人もの巫女さんが事務所に入ったり出たりしている。若いのから年寄りまで幅広い年齢層だ。皆、礼儀正しくて俺たちに挨拶をしてくれる。
御者のガインじいさんが言ってた通り、女性しかいないな。どこかに貴族が夜中に忍び込むために使った隠し地下水路があるんだっけ。
一人、服装が違う女性がやって来る。他の巫女さんが黒い服につば無しの白い帽子なのに、その人は服や帽子の縁が金色に刺繍されていた。胸辺りにも赤い宝石が品良く付けられている。黒い服にルビーみたいな石がよく目立つ。
一目で分かる、偉い人。
髪も歳を感じさせない、綺麗な金色だ。
でも、顔は皺が多いから年老いているのがすぐに分かるけどな。
「こんにちは。こちらに何かご用かしら?」
「冒険者ギルドの依頼で、倉庫の掃除に来ました。今は鍵を待っている所です」
俺も敬語にならざるを得なかった。目上に対してはそれなりの対応が必要だもん。
「それは、それは。急だったから、お手伝いさんが来てくれないかもと心配していましたのよ。ガインさんに依頼したのに、なかなか手が空かないって言うんだもの」
「ガインさん?」
ガインさんって、あの御者のじいさんのことか。
「あら、ごめんなさい。ご存知ない?よく日焼けをした初老の方よ。ギルドでお会いしてない?」
あぁ、御者のじいさんだ。
この仕事、ガインじいさんが直で依頼されたヤツなのか。それをギルドに回したか。
なんて奴だ。再会することがあれば、何か言ってやろう。
でも、昨日にギルドへ依頼じゃなかったか?俺たちと一緒だったから、じいさんの家族がギルドに話を持っていったのかな。
しかし、こんな偉そうな人にも顔が知れているとは、薄々感じてたけど、やはり只の御者ではないな。昔は有名な冒険者だったのだろうか。
「私はここの巫女長のフローレンスね。あなた方は?」
巫女長さんか、どれくらい偉いのか分からないけど、もしかしたらここの神殿で一番の人かもしれない。でも、神殿長ってのもいそうだ。
巫女長の挨拶を受けて、俺達も順に挨拶をした。
カレンちゃんだけは気付いていないようで、池の側で石を放り入れたりして遊んでいた。
ちょっと止めてよ、カレンちゃん。躾を疑われちゃうよ。
ティナがカレンちゃんを連れてくる。
「変わった感じの方々ね」
巫女長フローレンスは柔らかい表情のままでそう言う。
ちらっとアンドーさんの服を見た。
ジャージはおかしいよな。TPOとか完全無視というか、文明からして違うもんな。
「そこのカレン以外は、この国の者ではない。そう感じて無理もない」
ダンの言葉を聞き終えて、巫女長は直ぐに次の話題に移る。
「今朝ね、スードワット様のお告げがあったの」
「幻聴?」
おい、アンドー!思っても言うなよ!!
それを無視して巫女長は続ける。
「キラムの方で墓荒らしが出たらしくてね。私たちは探さないといけないのよ、そのいたずらっ子をね」
巫女長は片目を瞑って言う。ウインクだな。若い頃ならチャーミングな感じだったんだろう。
十中八九、墓荒らしってのはダンとアンドーさんのことに間違いない。
ガイコツの封印を開けたことがバレたのか。
そして、恐らくは何らかの方法で俺たちが怪しいと思っているんだな。じゃないと、偉い人が唐突にこんな話し掛けをしてこない。ここの巫女さんに道を訊いていた事も知っているのだろう。
「どうしましょうか?」
巫女長さん、そう言われても対応に困ります。『あなた達は容疑者です』とはっきり言ってもらった方が対応しやすいです。
「うむ、どうもこうもそいつを探せば良いかと思う」
ダンが堂々と言う。
「お墓に置いていた大事なものがないそうなのよ。返して欲しいってスードワット様はおっしゃっていたのよ」
二人は何も取ってないだろ。
……いや、取ったという表現はおかしいけど、あのガイコツと、ガイコツから貰った剣があるか。
でも、誰かが置いていたって訳じゃないよな。
その聖竜さん的には保管しておいたみたいな感覚なのか。
「申し訳ないが、心当たりはない」
「そうですか。あら、そのお嬢ちゃんは……」
巫女長がカレンちゃんを見る。
で、ちょっと沈黙してから口を開く。
「あなた、ちょっと大変ね」
「大変じゃないよ。ティナ達がいるよ」
「そう?……何か困ったことがあれば、ここに来て私の名前を言うのよ。私の名前、分かる?フローレンスよ。あっ……、これを渡しておくわ」
巫女長はカレンちゃんに自分の指輪を身に付けさせる。不思議な顔をするカレンちゃん。サイズも合ってないしな。
「ありがとう。でも、お返ししたいのだけど。それを頂く筋合いはないわ」
ティナが横から入ってきた。言葉に刺がある。カレンちゃんを巡るジェラシーかしら。




