スーナヤ石
「はい、出来ました」
書類を持って裏に行ったローリィが戻ってきて、俺たちに白い金属製のカードを渡す。
「それから清算も終わっていたみたいですので、こちらも」
銅貨をじゃらじゃらとカウンターに置く。
「パンドー草が154束出来ましたので、銅貨154枚になりますね。それから、既に粉で仕上がっていたものも銅貨二枚とします。なので、156枚になります。でも、粉はもう持ってこないで下さい。今回限りです」
ローリィはそう言いながら10ずつ口に出しながら数える。10を数え終わるとそれをひとまとめに重ねて置き、次の10を数える。道具でも使えばいいのに。
「はい、10枚が15セット、それから6枚で156枚ですね」
丁寧だがまどろっこしいな。まぁ、間違えて渡すことや、後から因縁を付けさせないためかな。
「皮袋は要りますか?」
「あぁ、お願いする」
「では、袋代として10枚を頂きまして、こちらになります」
ローリィは素早く銅貨の10枚の重なりを手で除き、残りを袋に入れてくれた。
「それから、スーナヤ石はどうされましたか?」
「あぁ、一つだけだけど買ってきたよ」
「ありがとうございます。では、裏手の倉庫で確認させてもらいますね」
「ここじゃダメなの?」
「床が抜けますし、誰が運ぶんですか?あの馬車に載っていなかった時に私は確信しましたよ。あぁ、聖服の方は素晴らしい収納魔法で我らがギルドを救う、金の卵だって」
石の買付を忘れている可能性もあるし、アンドーさんがいつか手伝わなくなるかもしれないけどな。ギルド登録の目的はカレンちゃんの自立だからな。
ん?俺は自立しなくていいのか。
一人じゃ間違いなく生きていけないな。
金貨をいっぱいくれたら独り暮らしもできそうな気もしてきたが、盗賊に襲われたら地面に埋められてジエンドだと思う。
ローリィに連れられて裏の倉庫に来た。
薄暗く、雑多な匂いがする。表の受付をする部屋よりも格段に広いが、部屋の壁際に物が並んでいるだけで、空きスペースが目立った。
旅に使った豪華な馬車は入ってすぐの所に置いてあった。じいさんはいなかった。
草が散らばっているのを、職員みたいな人が箒で集めていた。束にする作業の後片付けしてるんだな。
「結構広いんだな?」
「そうなんです。だから、いっぱい依頼物を持ってきて下さいね。大きいのもいけますからね。依頼外の物でも何かの素材になりそうなら買取りしますよ」
ローリィが奥に進みながら言う。
「じゃあ、この荷台に石を出してもらいましょう」
背面以外は簡単な枠で囲まれた、屋根無しのリアカーみたいなものを指差しながら彼女はアンドーさんに言った。
「ちょっと待ちなさい。街の中は魔法禁止なんでしょ?まずいわよ」
ティナが慌てて言う。アンドーさんが街のルールを無視して、もしくはうっかり忘れて、ご遠慮なくでっかい石を収納魔法で出してしまうと考えたんだろうな。
だって、俺も忘れてたもん。
「大丈夫です。この倉庫では使っていいんです。ここに書いてあります」
そう言って、ローリィは壁に貼ってある紙を指す。読めない俺も一応見ておく。
「分かりましたか」
「使ってもいいとはいえ、ここからすっごい魔法で街を破壊できちゃうようになっちゃうんじゃないの?余り良くないんじゃない?」
「そんなに危ないのはお城の人が監視してますから大丈夫です。よく分からないですけど、魔力を追って、悪そうな人は捕まえるんですよ」
そういうものなのかな。そのお城の人は監視しているだけで防げないんじゃないか。常に滅亡と隣り合わせな運命にあるように感じた。
「分かった」
そう言ってから、アンドーさんはリアカーに近付く。
『隠れし、その狐は姿顕し。軽々しく呼べぬその名と共に姿出でし物は、我が願いたる其の物と同じくして』
指ぱっちんじゃないんだな。と、アンドーさんは上からの監視を気にしているのか。出し終えた後に足がふらつく演技付きだ。
石を叩きながらローリィが言う。
「大きさは十分ですが、質はあんまりですね。こんなに奥まで亀裂が入っていたら、使える部分が少ないですよ」
偽っているとはいえアンドーさんへの気遣いは皆無だ。俺自身もそんなものは無いがな。
アンドーさん、演劇の才能は無いだもん。
「何に使うんだ?」
「これを石工が切って、石畳とか建物に使うんですよ。シャールは大きい街なのでいくらでも需要があるんです。スーナヤ石は剥がれるように割れるので石畳にもってこいだって、クソじじいが言ってました」
誰だよ、クソじじい。まぁ、石工かローリィの上司だろう。
入り口で床を掃いていたのとは別の職員が駆け寄り、石の質を見定めてくれた。
なんか魔法を使っているみたいで両目が光っている。ちょっと気持ち悪い。ハチュウ類的な何かを連想した。
「ではこちらがスーナヤ石の依頼書です。任務完了ということでよろしいですね」
「あぁ」
俺の返事にローリィが呟く。
「良かったです。これで、あの石工達に仕事が遅いってせっつきを受けなくて済むよ。もっと溜まった依頼を押し付けましょう」
なるほど、そういう事情か。変な依頼を受けないように気を付けないとな。しかし、こいつは口が緩みすぎだな。




