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冒険者登録

「それでは、ここに必要事項を書いてください。あっ、私が読める字で、ですよ。皆さん、入村手形で知らないのばかり書いてましたから」


「俺は書けないぞ」


「私も」


 カレンちゃんが俺の横に立って言う。


「ではお二人は私が代筆しますね」


 ローリィは紙とペンをダンに渡す。

 受け取ったダンはそれらを持ってティナとアンドーさんの所に持っていき、カリカリと三人とも書き込みを始めた。あれ、お前たちも冒険者登録するのか。正直不要なんじゃないか。



 俺とカレンちゃんはローリィからの質問―名前、出身地、年齢といった簡単なことを順番に答えていく。

 カレンちゃん、11歳だったのか。



「何か得意なことはないですか?」


「得意なこと?」


「そうです。冒険者カードを後でお渡ししますので、初めて会う人でも何が得意なのか、特技じゃなくてもどういう人なのか一目で分かるように自分のコメントを記載するのです」


 一言アピールみたいなもんか。しかし、俺が得意なこと?

 無いな。


 カレンちゃんも困ったのか、俺を見てくる。


「ナベ、私は何が得意?」


 食べることじゃない?とか思ったけど、それは趣味だな。


「カレンちゃんは、……山登り?」


 キラムの山じゃ、完全に俺より速いし疲れてなかったのを思い出した。

 盗賊をぶっ飛ばした棒術も凄いけど、そっちを書くとカレンちゃんが将来的に前線に立たないといけなくなるかもしれないからな。俺たちと離れた時を考えるとよろしくない気がする。


「それでいっか。ナベはどうする?リンゴの早食い?」


 それ伝えてどうするんだよ。食費を浪費しますよって事前に教えたいのか。どこのパーティがそんな奴を加入させたくなるんだよ。

 しかし、本当に俺は特技が無いんだよな。凡庸で御座いますよ。



「特に思い付かないな。ローリィ、こういう時ってどう書くんだ?」


「あん?『さん』とか『様』を付けなさい。ったく、最近の若造は」


 厳しく怒られた。んだよ、俺が従者っぽいからか。


「……ローリィさん、どう書けば宜しいですか?」


「よろしいです」


 ローリィは偉そうに胸を反らして言う。彼女は貧相な胸だから、別に強調されたりはない。



「ナイフ使いって書いておきますね」


 俺の腰にあるナイフを見てそう言った。たぶん、カレンちゃんの棒の方が強いんだよなとか俺は心で呟いた。


「白い冒険者カードのコメントなんて、誰も当てにしてないですから。何でもいいんですよ」


 そうだろうけど、はっきり言うなよ。



 神様三人もそれぞれ紙をローリィに渡す。


「あら、そちらの騎士さん」


 ローリィがダンの紙を見ながら言う。


「剣とは書いてあるのですが、もしや……下半身のですか?奥様が500人いらっしゃることですし」


 とっても失礼。どこの冒険者が自分のアピールに下ネタを使うんだよ。


「まあ、そちらも不得手ではないが。そこに書くのはどうなんだ」


 真面目に答えるなよ、ダン!全く聞きたくなかった。

 完全にローリィが引いてるよ。嫌みを言ったらとんでもない返しが帰ってきたパターンじゃないか。

 それに、関係ない俺にも心的ダメージが入ったわ。


「……被害者の会が結成されないように、嫁500人って追記しておきます」


 うん、書いてやれ。調子に乗るなよ、この筋肉バカが。



「そちらの聖服の方は、……生き物好きですか」


 ローリィがアンドーさんを見やる。


「魔法使いとはお書きになられませんか?」


「いらない」



「分かりました。では、そっちのやたら胸が目立つ貴族様は胸の事をお書きになられませんか?」


「なんでよ!今渡したのでいいじゃない」


 なあ、ティナの言う通りだ。バストが大きいって書いてある冒険者カードを見せられて、どう反応するんだよ。女性陣の受けを完全無視して、オタサー姫様プレイを楽しむのか。

 それにカード確認しなくても外観で分かるだろ。

 そもそも貴族様だと認識しているのに、なんて事を言うんだよ。ローリィ、ちょっと遊んでるだろ。


「えっ、でもプレートアーマー来てたら分からないじゃないですか。姿格好が隠されたそんな状況で、中身はうら若き胸でかい女って情報があれば、わくわくしちゃうのが世の常です」


「滅びなさいよ、そんな世は」


「でも、コメント欄が書いてないんですよ」


「ナベと一緒で思い付かなかったのよ」


「ティナは細剣でいいんじゃないのか?」


 俺が横から口を出す。


「あと、料理が苦手だったよ」


 カレンちゃん、盗賊が飲み残した謎の緑汁を遠目で悲しそうに見てたもんな。どんな化学反応で、あんなグロテスクな物が出来上がったんだろう。


 でも、カレンちゃん、大事なことを忘れている。それ、特技じゃない。



「分かりました。思い付きました。毒物製造にしましょう」


「……こんなに怒りを覚えたのは久々よ。殺意ってこんなにも簡単に浮かぶものなのね。だいたい、あなた、私の手料理を見ていないじゃない?」


 見せたら特技がそれで確定するぞ、ティナ。満場一致で、誰が見てもだ。


「いえ、良いのです。アピールですよ。あなたは今から毒物製造マシーンとなるのです」


 ティナが憤慨しているが、ローリィは表情を変えない。無視して書類チェックを続けている。


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