門の外側
シャールの外壁前には行列がまたしても出来ていた。最初に来たときとは全く方角も別の門だが、中に入りたい人間の数はそんなに変わらないようだ。
今回並ぶのは馬車がずらっと待っている列だ。
目で見える程度に遠い所には、入門手形を持っていない、言い方は良くないが汚ない連中の列もあった。
こうして眺めると小さな子を連れた家族なんかもいるんだな。奴隷になった時も家族一緒だったら、幾分マシなんだけどどうなんだろう。
「カレンちゃんも俺たちと会う前はあそこみたいな列に並んでいたのか?」
「たぶんそだよ。でも、お腹空いたりして全然覚えてないよ」
つい数日前だけど、布切れを被った格好で虫もいっぱい付いてたものな。今となってはアンドーさんの出す食事のお陰か、顔も少し丸みが出てきたかも。
まぁ、その感想を言葉にするとデリカシーがないとか思われ兼ねないから言わない。
「ナベ達もいたの?」
「カレンちゃんの二つ、三つ前くらいにいたんじゃないか。こっちも気付いてなかったけど」
「えっ、そうなの!皆に会えて良かったよ。神様のお導きかな」
カレンちゃん、満面の笑みで言う。
神様のお導きか。俺が視線をカレンちゃんの方に持っていかなければ、出会うことはなかったんだろう。その視線を誘導したのが神様のうちの誰かなのかもしれないと、ふと思った。
窓の外を見ると、まだまだ街に入れるには時間が掛かりそうだ。カレンちゃんとの会話を楽しむ時間にしようか。神様連中は上空の監視を気にしてか、余り喋らないしな。
「出会ったときにカレンちゃんが着てた服は村の普段着なのか?」
カレンちゃんの村をティナに見せて貰った際、カレンちゃんのお母さんと妹は普通の服だったからな。カレンちゃんに出会った時に着てたのは奴隷用に近かったというか、高確率で奴隷用だ。
「お父さんと村を出るときに着せられたの。いい服着てると誘拐されるからって」
そうなの?確かに汚い服ならお金持ってなさそうだからな。
でも、村人の服も街の人と比べるとそんなにいいものじゃなかったけどな。
「でもね、あの服ね、とても汚かったから余り着たくなかったよ。獣人だから仕方ないのかなって思ってた」
少しだけカレンちゃんが悲しそうな顔をする。
「私が大きくなったら、おんなじように獣人の困ってる人を助けるの。だから、ティナみたいに強くなるの」
意思のこもった、強い目で俺にそう言う。カレンちゃん、すごいな。
俺が同い年の頃はひたすらゲームとか漫画、たまに友達とサッカーだったよ。毎日の登校がたるくて、隕石でも落ちて学校が滅ぶ事を登校中に願ったことさえあったな。
「その時は俺もカレンちゃんを手助けしようかな」
「うん、ありがとう」
笑顔でカレンちゃんが応えてくれた。それから、あの貧しい人が中心の列を見る。
「今でも助けたいんだよ、ナベ。でも、力が足りないの。ダンやティナ、アンジェでも、あんなにいっぱいの人達は助けられないでしょ」
いや、奴等なら出来る。気の向いた時は、そういったこともするんじゃないかな。
ただ、俺が願ったからといって奴等がやるってもんじゃないだろう。一緒にいて分かってきたが、あいつらは気に入った個人だけを助けている気がする。それが最善なのかは知らないが、長い時を生きる中で、色々と経験しているのだろう。
だから無理強いはしない。困ってる人間を助け続けるのもおかしな話だと思うし、限界も早く来そうだし。
しかし、カレンちゃん、こんな立派な考えを持っていたとは。ナベお兄さんは嬉しいです。




