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天空からの監視

「ガインさん、見回りの兵隊さん達が来てくれましたよ」


 次の朝、宿屋代わりに使った空き家に村長さんがやって来た。俺達はじいさんが作った朝食を頂いている最中だった。


「ほな、俺だけ行ってくるわ」


「いってらっしゃーい」


 目玉焼きの黄身を口の端に付けながらカレンちゃんが勢いよく手を振る。目の前の食事が中断されなくて良かったという気持ちがよく伝わってきたよ、カレンちゃん。


「ガインさん、よろしくね。あいつらの処遇は任せたから」


 ティナが扉の外までじいさんを見送りながら伝えていた。扉を閉めて、皆がまたテーブルでの食事に戻ったところで、俺は訊く。



「魔法、使わないのか?リンゴも欲しいんだけど」


 カレンちゃんがその言葉に反応して、うんうんと首を動かす。


 この村に着いてから、神様連中は魔法を使っていない。

 村のルールを守っているのだろうかとも思ったが、今までも奴等は好き放題でやってきたし、使いたければ遠慮しないはずだ。


「んー、なんて言うのかな」


 ティナがアンドーさんを見る。


「使いたくない」


 あら、理由は隠しているか。珍しいな。


「使うとまずいのか?」



「日本語で言うよ。ここの村に着いてから誰かに監視されている。空から透視(クレボヤンス)を使ってるのかな。人間じゃなさそう。悪目立ちしないように控えてるの」


「そうなの?ちゃちゃっとその監視を消しちゃえばいいじゃん」


「ダメよ。そういう発想は自分で出来るようになってからにしなさい。大体ね、暴力に訴えるなんて最低よ、ナベ」


 お前が言うなよ。盗賊とやる前に暴力を振るいたがっていたのを忘れてないぞ。


「それに、探していた、ここの神様の関係かもしれないしね。しばらくは気付いてない振りで様子見したいの」


「それなら、さっさっとコンタクト取った方が早いだろ」


「いいえ。探している神様と違ったらまた何か他の事に巻き込まれるわ」


 確かに余計なことはせずに、カレンちゃんの獣化を抑えることが先だな。そのためには、ここの神様とお話し合いをして許可を貰わなくでは。



「分かった。そういうことだな」


 まぁ、そんなに分かってないんだが、そういうことだ。

 リンゴは当分お預けか。


「カレンちゃんもごめんね。ちょっと魔力の補充がいるのよ」


「えー、リンゴないのぉ」


 カレンちゃん、かなりのショックのようで、手に持っていたフォークを落としていた。


 俺もだよ。帰りはエアコン魔法なしなんて、暑くて死ぬかもしれない。キャビンの中なんて風通しが悪すぎて室温だけじゃなくて湿度もすごいことになりそう。



 さて、食べ終えた所でダンの待つ、馬車置き場に向かう。じいさんによる盗賊たちの処遇決めも終わったかな。


 俺たちが着いたら、もう盗賊も治安担当の兵隊さんとか言うのもいなかった。集まっていた村人も解散し始めていて、疎らな感じだった。


「結局、皆助けたのか?」


「そのつもりやったんやけどな。アジトに残っている奴がおるかもしれんと兵隊さんが言い出してよって、みんな連れていかれたわ」


「じゃあ、どうなるんだ?」


「まぁ、落ち着いたら俺に連絡あるやろ。その時に解放したるわ」


「そのまま殺されることもあるんじゃないか?」


「隊長さんとは知り合いやから下手なことにはならんで。殺したりしたら、今の段階では俺の財産権の侵害や」


 じいさんの財産権なんざ、どうでもよくて考慮されない気もするんだけどな。

 面倒ごとを言うなら、序でにじいさんの生存権も侵害しときましょうかって、簡単に剣を刺されちゃう感じになりそう。



「しかし、あの盗賊たちもよく大人しく着いて行ったな」


「あぁ、あの(かしら)だけはごちゃごちゃ言いよったな。俺が安心しろちゅーても、すぐ解放しろゆーてたわ。気持ちは分からんでもないけど、最後は兵隊さんに殴られて連れていかれたわ」


 (かしら)にとっては誤算だからな。今日になったら解放するような事を約束していた訳だから。


「約束を違えるのは盗賊といえど後味悪ぅなるやん。せやから、そこの点はきつー隊長さんにゆーとるから安心してえぇで」


 じいさんのネゴがどの程度の効くのか期待していないが仕方ないな。そもそも、あいつらも俺たちを騙しながら待ち受けたり、襲ったりしてきたわけだし。

 俺たち以前の被害者達も同じ様に攻撃されて、たぶん死んでいるだろう。そう思えば、兵隊に殺されて、あいつらに文句を言われる筋合いはない。そうなった場合に約束を守れない事には少し良心が痛むが。



「それじゃ、シャールに戻りましょう」


 ティナがじいさんに声を掛ける。


「せやな。あいつらは兵隊さんから連絡があったら迎えに行くわ。嬢ちゃんにも伝えよか」


「んー、シャールに戻った後にガインさんと会えるかどうか分からないわね。だから、無理にとは言わないわ」


「分かったわ。ほな、あんたらを街で見掛けたら教えるわな」


「ありがとう」


 二人は簡単なやり取りの後に馬車にそれぞれ乗る。じいさんは御者台、ティナはキャビンだ。俺もティナに続いて乗り込む。



 シャールまでの道中は至って平穏だった。心配したキャビン内の暑さも、窓を開ければ大したことなかった。ちょっと狭いのと退屈しのぎに苦労したくらいかな。


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