処理
じいさんも戻ってきた。少し深刻な顔をしていた。が、何を喋ったかは聞くつもりはない。
余計なトラブルの元だ。俺にとってはカレンちゃんの獣人化を止めることが優先だからな。神様連中に至っては、たぶん盗賊の一味に少しの興味もない。
「お疲れさん」
「ほんま、疲れたわ。せやのに、今からあいつのケツを拭いたらなあかん。ナベ坊、手伝うか?」
そのケツ拭きは文字通りの意味だろ。何の罰だよ。
「絶対、嫌」
何が悲しくて、明らかな汚物処理をしないといけないんだよ。
「せやわな」
じいさんは飼い葉を食べている馬を見つめているアンドーさんに近付く。
「アンジェ、あいつのうんこ、転送してくれへんか?」
強烈な要請だな。いきなりそんな事を言われたら耳を疑う。
「は?」
ほら、いくらアンドーさんでも対応しきれてないじゃん。
「あいつな、うんこ漏らしとんねん。だから、アンジェの魔法で、そのうんこをキレイにしてやってくれへんか?」
「ふざけんな。ナベと拭け」
なんで、俺もなんだよ。全く関係ないぞ。
アンドーさんは、そのままキャビンの中に入っていきやがった。じいさんの強引さに負けるかもと思って逃げやがったな。
馬のケツは拭けるくせにわがままだ。
しかし、このままでは俺も巻き添えを喰らいそう。
「ダンに頼もう。あいつなら、快く受けてくれるかもしれない」
俺はじいさんに提案する。じいさんも賛成だ。
が、断られた。カレンちゃんの棒術の練習で忙しいんだとさ。
指先から紫の光を出したらちょちょいのちょい、お茶の子サイサイだろうに。一瞬で終わるじゃん。
まぁ、いい。まだもう一人いる。ティナだ。
「えっ?一日くらい挟ませておきなさいよ。大丈夫よ」
なんて残酷なんでしょ。赤ちゃんなら声を枯らしながら泣いてる状態だぞ。
しかし、あいつはそんな可愛い生き物じゃないな。むしろ、そのまま土と同化してもらっても構わないとさえ思えてきた。
「じいさん、貴重なご意見が出たぞ。俺としては採用したい」
別に約束した訳じゃないからな。
そもそもお漏らしなんかするなよ。旅先ではなかなか出て来ないみたいな感じで、捕まってるんだから体内で留めておけよ。
こっちの奴が好きな言葉、自業自得だろうよ。
「大体、そんなのわざとよ。縄を緩ませたいのよ」
そっか。ティナさん、賢い。
それでもわざとパンツの中で脱糞ってレベル高いな。ほら、お尻が生温かくなる感じを想像するだけでも気持ち悪い。よく決断できたものだ。
「縄は緩めてえーんやけどな。もう逃げへんやろ」
「じゃあ、自分でしなさいよ」
「俺は魔法使えへんから無理やろ。触りとーないわ。臭いし」
「俺もだ。ティナしか頼れないんだ」
ティナの目を見詰める。真剣なお願いである。
「私にとっても、臭いし、汚いから嫌よ」
そりゃねぇ、神様でも汚物処理は進んでしたくないですわな。介護だとか困ってる人にするのなら、したいしたくないじゃなくて、俺もしないといけないと思うんだ。
「あの仲間たちにさせればいいんじゃないの?」
それ、素敵!
じいさんと俺は顔を見合わせる。
「さすがティナだな。助かった」
「名案やわ。嬢ちゃん、胸だけが自慢やないな」
「ちょっと!そもそも胸を自慢してないわよ」
俺とじいさんは晴れ晴れと笑いながら、盗賊の元に戻る。見張りの村人が何人か集まっていた。
「ガインさん、こいつが漏らしていたのでキレイにしておきましたよ」
なっ、俺たちがまごまごしている間に既に終わっていた。
有り難い、でも自分の器の小ささを実感してしまう。
「ありがとさんやな。よーやってくれたわ」
言葉とは裏腹に、少しじいさんも複雑そうな表情だ。
その日は村人が食事と寝場所を提供してくれた。
更に盗賊の見張りは村人がかって出てくれた。親しいガインさんへの村長の配慮なのか、自分達の自衛のためか、はたまた、こういう時の義務なのか。
ダンも盗賊が怪しい動きをしないか見張るということで、馬車に留まった。俺はそれが建前で村が貸してくれた空き家が虫いっぱいと判断したのだと断言しよう。




