盗賊の頭
俺たちはお頭の所へ行く。
仲間がいると喋り難いかもしれないという、じいさんの配慮で少し離れたとこに仲間の方を動かす。
何せ、頭の方は身動きできないから俺らが運ぶ必要があるのに対して、仲間の方は手だけしか縛られてないから命令すれば自分達で動けるからな。
それにお頭はずっと縛られたままだから尿とかお漏らしして触りたくないし。
お頭は口に猿轡をされていた。それをじいさんが外す。
俺がしようとしたら、噛まれるかもしれないから下がれって言われた。
じいさんは屈んで盗賊の目線に顔を入れる。
「おい、なんか食べるものくれよ。それから、体が痛いから縄を緩めてくれ。頼むわ」
「あほかいな。お前は明日殺すんや。はよう勝手に死んでくれた方がこっちは楽なんやで」
じいさんの毅然とした言葉に盗賊は黙る。少し間を空けてから、盗賊が脅すように言う。
「ふざけんな。物証もないんだぞ。俺が盗賊だなんて、裁判してから言えよ。解放されたら代わりにお前らを訴えてやるからな」
「お前な、俺らはそんな事を話しにきたんやないんや。お前が裁判でも真実の鏡でも望むんやったら、そうしたらえーねん」
真実の鏡?何それ。めちゃくちゃ便利そうな道具名だな。
「じゃあ、何しに来たんだよ?」
こいつ、じいさんの発言から生きる希望みたいなものを感じ取ったな。口調は変わらなかったが、目が少し鋭くなった。切り替えが早い。
明日殺すのが確定してるんだったら、わざわざ話しに来ないって判断したか。
少なくとも俺たちに知りたい情報があって、それを基に取り引きできるかもという希望が見えたな。
「分かるやろ?あの魔法使いは誰や?」
「大事な仲間だ」
「そういうことでもえーんやけどな。すこーし情報をくれたら、それなりにこっちもお前の行く末を考えるで」
じいさんが薄く笑う。年季の入ったしわがより深くなる。
「俺が何を言っても信じられないだろ」
「せやな。だから、魔法を使いんたいやわ。えーかな?」
あぁ、じいさんが得意とか言う≪告白≫か。
「……それで俺の処遇は変わるのかよ」
「そら言えへんわ。えー情報を吐けたら考えたるで」
じいさん、頭も助けると言ってたから、ただの脅しだろう。
「くそが。何も喋らん」
「どう考えても、糞はお前やで。ズボンの中、えらいことになっとるやろ」
確かにな。尿だけではない臭いだ。
こいつのお尻は荒れ果てるな、ご愁傷さまです。
「何の魔法か知らんが、掛けるだけ掛けてみろよ。俺の口は固いぜ」
「そんな風には見えへんけどなぁ」
じいさんはそう言ってから立ち上がった。
「ナベ坊、ちょっと離れてくれへんか。何を喋るか分からへんからな。聞かへん方がえーこともあるで」
「分かったけど、そいつ、喋る気なさそうだぞ」
「そりゃ建前わな。格好だけでも言うとかな、後々、強制的に言わされましたんやって言い訳できへんよーになるんやろ。ほんま、頭が回る小悪党やわ。喋る気がないんやったら、『喋らん』じゃなくて『知らん』やで」
ニヤリとしてから盗賊がじいさんを急かす。
「いいから早くしろよ。それから、痛いのは止めろよ。あと、終わったら縄は弛くして飯を喰わせろ。ズボンの中も何とかしろよ」
あぁ、なんか喋る気を感じるね。俺はじいさんの言う通り、遠くに、馬車のところに戻る。
それにしても、じいさん、あの盗賊の情報を聞いてどうするんだろ。冒険者としての仕事仲間にでも情報を売るんだろうか。俺は今日こそ太陽が月に変わるところを見ようと待ちながら考えていた。




