盗賊の処遇
「なんや?こっちは仕事中なんやで、そんなもん、いちいち連絡するかいな」
「連絡くらいいいでしょ!そもそも、なんで御者なんかしてるんですか!?」
あれ、じいさん、御者が本業じゃなかったのか。まだ冒険者続けてたとか。
「あー、今は御者なんやで。忙しいから、あっち行っとき」
じいさん、手をしっしっと振る。村長さんはそんなのに従わない。もちろん俺もだ。
「村長さん、じいさんと知り合いなの?」
「ガインさんには、いつも助けられてるんですよ。色々と融通を付けてもらってます。こんな村の、冒険者受けの良くない地味な依頼も快く引き受けてくれるんですよ」
あぁ、じいさん、元冒険者とか言ってたけど現役というか簡単なものはまだやってるんだな。
「色々と手先も器用だしな、じいさんも」
「えっ、…まぁ、そうですね」
村長さんの歯切れがなんとなくというか、かなり悪い。俺、なんか言い方が不味かったか。
「ガインさんを御者でやと―――」
「馬が騒ぐからあっちいっときや。ジャン、お前も村長の仕事せな、奥さんにまた怒られるで」
あの太った黒人の奥さんね。おおらかそうなのに怒ることあるのか。
それにしても村長さんは顔立ちはっきりくっきりの白人だから、本当に肌の色での差別はないんだな。
「あっ!そうだ。まだ次の納税計算の途中だった!早く戻らないと、またどやされるよ…」
村長さん、最後の方は弱々しい声だったな。そのまま、駆け足で村の方へ戻っていく。
「じいさん、頼りにされてるんだな」
「村の者は気付かへんかったんやけどなぁ。ジャンはよー会ってたからやろか。まぁ、恥ずかしいとこをみせてもーたわ。勘弁やで、ナベ坊」
何を恥ずかしがるんだ、じいさん。知り合いに会っただけだろ。信頼されてる姿を見られるのが照れ臭いのか。
「んで、あの盗賊どもはどうするんや?あの頭以外は奴隷解放なんか?」
たぶん、そうだろうな。そういう条件で証言してもらったんだしな。
「それじゃ、いけないのか?」
俺は広場の端っこで再度全身を縛られたまま転がされているお頭と、そのすぐ側で後手に縄で縛られた上で一本の太い縄で繋がれた4人の盗賊を見る。
お頭は簡易裁判みたいなのが終わってから、ずっと同じ体勢で簀巻きに縛られている。正しく自業自得だけど、かなり厳しい待遇だな。
「決定権は捕まえた奴にあんねん」
そうか、じいさん、村長との会話が聞こえていたんだな。離れていたのに、結構耳いいな。
「じいさんが捕まえたことにすると、じいさんが決めるのか」
「そないなるな」
「じいさんはどうするつもりなんだ?」
「ナベ坊と同じ判断でえーんやけどな。盗賊なんざほっといても沸くもんや。過去の罪で死刑になるんやったらそれでえーんやけど、俺が決定するのもあれやからな。それにな」
じいさんは、更に続ける。
「あいつらの仲間に魔法使いおったやろ?」
「あぁ、アンチマジックの」
「そや、あれは厄介やで。あれだけの魔法を使えるんやったら、普通は兵隊とかになるもんや。それが盗賊やっとるんや。裏があるわな」
ただ単に一般社会に馴染めないアウトローの可能性もあるけどな。高学歴ヤクザみたいな感じ。
「で、あの頭と取引がしたいんや。あの魔法使いが何者か教えてくれたら自由にしてやるでって。えーか、ナベ坊?」
俺が決めて良いのか。とか思ったらアンドーさんと目があった。
「ガイン、いい。好きにしていい」
「ほな、馬の世話が終わったら行くわ。ありがとな、馬好きの嬢ちゃん」
「アンジェでいい」
なんでだよ!俺だけかよ、アンドーさん呼びを強要されてんのは!




