盗賊の引き渡し
日暮れまでにはチャールカの村に着くことが出来た。行きと違って下り坂だし、御者のじいさんも盗賊を気にせず進んだから、早くなったんだろうな。
昼飯を簡単に済ませたのもある。
あれだけやっときながら、アンドーさんが『力は秘密にしておくべきだ』とか言って、飯を出してくれなかったのだ。なので、じいさんが作ったスープ料理になった。今更感が強すぎる。
お頭じゃない方の盗賊、堂々としてた奴にも食わせてやった。お頭の方は、また逃げると面倒くさいということで、縛ったまま皮袋を口に当てて水だけ与えていた。
村に着いて、すぐに盗賊を引き渡す。
縄を解かれたお頭が誤解だとか、虚偽通報だとかの言い逃れをしたり、都合の良い良い言い訳を駆使したり、最後には泣き落しをしていたりと、色々あったが、一人だけ連れてきた仲間の盗賊が全て素直に喋っていた。
謎汁の悲劇を味わうことがなかった、あいつは自分達の罪を全て伝えていたようだ。
盗賊のくせに中々に筋が通った奴だったのか。
それでも、その場では直ぐに結論が出ずに、お頭は村人に連れていかれた。
その後、遅れてやってきた仲間の証言で完全に黒という雰囲気になった。
ちゃんと来たんだな。俺なら逃亡していたかもな。いや、仲間に裏切られ見捨てられた彼らには、もうここに来るしか選択肢がないだけなのかもしれない。
そして、何よりあのティナの謎汁再びを恐れた結果というのもあるだろう。
「この度は我等の安寧のためにご助力頂きありがとうございました」
一連の簡易裁判みたいなものが終わってから村外れの広場で佇む俺たちに村長らしき男性が声を掛けてきた。
「いいのよ。気にしないで」
ティナが相手をする。
こいつが一番偉そうな服装だから村長の相手をするには丁度いいな。
「本来であるなら私どもが口を聞くのも憚れる貴族様とお見受け致します。この度の件については、そのご活躍を我等が領主である伯爵家の方々にもご報告致しましょうか?」
「却って迷惑ね。一応、お忍びなのよ」
確かに貴族を語る不届き者になる可能性大だからな。
ただ、その服装でお忍びってことはないよなって村長が感じてると思うぞ。
「盗賊を捕まえたとなると、その顛末を衛兵にも伝える必要が御座います。貴女方の事をどうお伝えすればよろしいでしょうか」
「んー、何って言おうか?」
ティナが振り向いて俺を見る。おい、こっちに頼る気かよ。
「御者のじいさんが捕まえたでいいんじゃないか」
実際に縄で縛ったのはじいさんだしな。
「……御者でございますか?」
不満ですか。
「そうそう。あの人ね」
俺は遠くで馬を拭いていたじいさんを指差す。
あっ、アンドーさんも長靴はいて世話してるな。
「……あれ? ……ガインさん?」
村長さん、知ってる感じだな。世界は狭い。
「そうだよ。ガインじいさんだよ。昔は冒険者だったらしいから、申し分も付くんじゃないか。俺たちはたまたま、ガインじいさんの馬車に載っていたということにしておいて」
村長さんは黙って立っていたが、そのままじいさんの所に近付く。俺も一緒に付いていく。
「ガインさん! 村に寄ってるなら、連絡を下さいよ!」
親しみも込めて、村長さんがじいさんに言った。




