ティナのスープ
一段落して、俺たちが馬車に乗り込もうとしたところで、ティナが歩き組の三人に言う。
「そうそう、昨日スープを作ったのよ。食べてみて」
「……は?何のために?」
唐突に言われた盗賊が疑問を口に出す。それに加えて、表情からは不安を感じているのが分かる。
毒殺されるかもしれないからな。いや、あの緑のねっとりした汁は劇毒物みたいなもんだろう。ご愁傷さまです。
「料理の練習中なのよ。味の感想を聞かせてほしい」
「それなら、後ろの仲間らに頼めよ」
ふざけるな!あんなもん、食えるか!
そんな言葉は口には出せない。
「ダメよ。ナベは見た目だけで食べてくれなかったんだから」
食材からは想像できない色と臭いだったからな。そもそも盗賊で試そうと言ったのは俺だ。
「カレンも食べたいな」
くっ、カレンちゃん、食に関しても貪欲。
最初にイナゴやナマコ、納豆を味わった人は、こんな子供だったのかもしれない。
「カレンちゃん、嬉しいわ。でも、私の勘がダメって言うのよ」
俺の本能もダメって言ってるね。ごめんね、カレンちゃん。
「……そんなものを俺たちに食べろと?」
「そんなもの?私が作ったのに?」
ティナの声が少し震えていた。それを聞いた盗賊も体が震えていた。
ティナは大きめの皮袋を出す。たぶん、あの中に昨日の謎汁が入ってるんだろう。
盗賊達は互いに目を合わせる。覚悟を決めかねているんだろうな。
ティナは三つの木椀を出して、そこに緑の気持ち悪い液体を注いでいく。だから、なんで泡が残るんだよ。洗剤でも入ってんのかよ。
立ち尽くす盗賊達にティナが嬉々として椀を渡していく。
俺なら受け取ってすぐに放り投げるわ。立場上そんなことが出来ない盗賊さん達は自業自得ということで。
「さあ、召し上がれ。はい」
ティナの号令に遅れて、同時に口に付ける盗賊達。
全員、鼻を押さえながらというのが青汁を飲むバラエティーみたいだ。安心安全が確保されてないので根本的に違うのが気の毒です。
三人とも顔を青くして倒れた。
アンドーさんが瞬時に解毒魔法を掛けたおかげで無事ではあった。アンドーさんは何の魔法か口に出さないので、本当は解毒かどうかは分からないのだが、きっと絶対にそうだろう。下手したら蘇生の可能性だって十分にあるか。
更にお水をあげてから、ティナによるアンケートタイムが始まる。
「どんな味だった?美味しかった?」
一人目の盗賊さん。
「……飲み込んだ後に何かが突き刺さった様に腹と喉が痛くなった……。味?ふざけんな、殺してくれ。ひっ……いや、お前じゃなくて俺を殺してくれって意味だ。……意味です」
二人目。
「……思い出したくない。自爆した方が良かったと思えた……。えげつない処刑方法だな」
三人目。
「……もう殺せよ。そのつもりなんだろ?」
食用には適さないってことがはっきり分かったな。昨晩料理を止めさせて正解だった。グッジョブ、俺!
「そっか。美味しくなかったか。一縷の望みに掛けたんだけどな」
肩を落とすティナ。何もなかったかのように馬車に乗り込む俺たち。
「では、すまんが、歩いて麓の村まで来てもらおうか」
「逃げたら、またさっきの液」
アンドーさんの残した言葉に青ざめる盗賊達。液って表現がもう食べ物じゃないよな。
今の言葉だけで、えづいている人いますが、大丈夫ですか。




