表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/123

自業自得

 無言で押し黙る盗賊たち。


「大丈夫。踏み忘れないように印」


 アンドーさんが指ぱっちんしたら、馬車の前方にある曲がり角の地面が黄色く光る。あそこにあるってことだな。


 それだけはっきり分かってるなら、敢えて先導させなくていいじゃん。



「結局、俺たちに死ねってことかよ!」


「そう。でも、あなた達もいっぱい他の人を殺してるでしょ。その償いだと思えば、行けるよ。ガンガン踏みしめるよ」


 行くわけないだろ。


「た、助けてくれ!全部喋るから、喋るから」


「最初から全部喋りなさいね、次はないからね」


 ほんと、怖いわ。笑顔なのがより一層得体の知れなさを感じてしまう。同じ感覚を盗賊も覚えたのだろう。明らかな身震いをしてる奴もいた。人間ってこんなにガタガタ震えられるものなんだね。



「俺たちは逃げようと言ったんだ。そしたら、無理矢理、地雷を踏まされたんだよっ!」


「仕返しだよ。負けた腹いせに、こんな事をお頭は考えたんだ。お前らが悪いんだ」


「……足元の爆薬に気付かなければ、そのまま一緒に死ぬつもりだった。残念だ」


 ダン、何が『歯向かうくらいなら逃げるだよ』!一人、超攻撃的に来てる奴がいるじゃないか!



 そいつが続ける。さっきから妙に堂々とした態度の奴だ。


「覚悟はしていた。お前達が来たら足を動かすはずだった。ただ、そこの娘が近付いてきたら足がすくんで動かなかった……」


 お前は死ね。いいから死んでくれ。

 一緒に村まで行ける気がしない。すくんでなかったら、俺たちを殺る気だったんだろ!?


「私が魅力的だったからかな」


 違うな。俺には分かる。

 ティナがなにがしかの魔法を使ったのが濃厚だ。


「その先の爆薬で全部だ。後は村まで何もない」


「お前らの仲間はどこにいるんだ?」


 ダンがその男に尋ねた。たぶん、ダンはもう知ってるんだろうが、あえて訊いたな。本当に魔法とか使っていいんだよ、ダンさん。

 俺の命に関わるので虫を駆除するくらいの勢いで、凄いのを使ってもらって構いませんことよ。


「……知らん。どこかに潜んでいると思う。爆薬の音が聞こえたら集まることになっていた」


「そんなことはない!もう逃げている。俺たちは足止めにされたんだ!」


「お頭にとって、俺たちは捨てゴマなんだよっ!」


 周りの盗賊たちも次々と打ち明ける。


 俺たちが盗賊に近付いたら、足を浮かせて自爆する命令だったらしい。なのに、命乞いをした奴が出たことで、皆の気持ちも傾いたそうだ。

 傾いたというか、俺たちが着いた段階で、一人を除いて既に死にたくない気持ち全開だった様に見えたが。


 殺る気マンマンだった奴も今はその気持ちはないらしい。

 そんな言葉で俺は安心してないけどな。



「おい、お前たちは黙って聞いて欲しい」


 一人立ち続けている盗賊が仲間に向かって静かに命令した。それから、俺たちに向き直ってゆっくり喋る。


「お頭がこいつらを囮にした時に俺は志願して一緒に散ることを選択した。他の仲間を守るためでもあるし、こいつらだけで死なすこともしないためだ」


 男気があり過ぎる発言だ。

 だが、その覚悟は俺たちを爆殺することを意味するのだから堪らないな。


「俺たちが失敗した時はお頭が先頭になって強襲するはずだった。なのに、これだけ時間が経過した今となっても気配を感じない。逃げたというのは本当だろう」


 周りの盗賊が座ったまま、強く頷く。


「お頭は鉄の結束を言っていたはずなのに、この有り様だ。俺に団を守る義理はなくなった。こいつらを助ける条件で俺がお頭の罪を証言しよう」


 なんだ、いい奴なのか。なんで盗賊なんて職に就いてんだよ。もっと職人とか目指せばいい親方になれたんじゃねーの。


「分かったわ。じゃ、そのお頭を村に連れていくね。で、今喋ってくれた人以外のあなた達も盗賊であることをちゃんと証言してくれるの?」


 ティナはもうお頭を捕まえたつもりだな。うん、前もダンが簡単に魔法で捕捉してたもんな。



「証言したら、俺たちはどうなるんだ?」


「ちゃんと証言が出来たら、奴隷じゃなくて自由にしてあげようかな」


「本当か!?」


「きっと本当よ。でも、真っ当な職に就きなさいね」


「神に誓ってか!?」


「えー、私、あんまり神様とか宗教とか分かんないのよ」


 神が何を言ってんだよ。追加で俺は訊く。


「ちなみに、前の戦いで俺たちが素直に降参していたら、どうなっていたんだ?」


 ちょっと沈黙が走る。そこにティナが口を挟む。


「ちゃんと正直に言いなさいね。じゃないと、アレを踏むことになるわよ」


 黄色く光り続ける地面を指差しながら言った。


「……全員殺して埋めていたと思う。女は売っていたかもしれないが」


 ティナに聞いていた通りだな。

 しかし、マジおかしいだろ。そこまでするつもりだった癖に、自分達の立場が変わったら命乞いだと。

 俺は続ける。


「で、そういったのは何回もしてるのか?」


 次は座ってる奴に尋ねてみた。


「……ずっとな。俺たちの生業だからな。……おい!さっきの自由にする約束は守ってくれるんだろうな!」


 守りたくないな。無罪放免なんて、報われない人もいるだろうに。

 俺が少し返答に躊躇したのを埋めるためか、ティナが代わりに返す。


「まぁ、盗賊に襲われたのも私たちの自業自得よね。気にしてないわ。ただ、今からは人殺しをしちゃダメよ」


 全く理解できないが、そういう考えでもいいのか。例え自業自得だとしても、こいつらを許すのは別だろ。

 そもそも盗賊どもが約束を守るかどうかなんて分からないぞ。あっ……ティナが約束を守るかも確かじゃないか。


 命に係わる事で騙されても自業自得とかで軽く済まされる生活なんて嫌だぞ。誰も信用できなくなる。もしそうだったら、一刻も早く日本に帰らせて下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ