アンドーさんの聴力
難しい質問をしてきたな。結構気が合って友人みたいに感じてるから、じいさんに嘘を付くのも嫌なんだよな。
出来るだけ分かりやすく、且つ、無難に収めるには、どう答えればいいんだ。
「遠くにある日本っていう国の出身だ」
これくらいは良いだろう。本当だし、じいさんに言ったところで何も影響なさそうだし。
「聞いたことないわ」
そりゃ、そうだろ。
しかし、偶然同じ名前の国があってもややこしくなりそうだったな。
「そんな遠い国からやと長旅やったろーな。何か目的があって、ここに来たんか?」
目的なんて俺にはないんだよな。ダン達に拉致られたと言っても、なんか無駄にじいさんのあいつらへの心証を悪くするだけだけか。
「気付いたらこの国にいたんだ」
「なんや。神隠し的なもんにあったんか」
言われて、その通りと思った。
偶然ながらじいさん、大当たり!
「そんな感じだな。余りに突然だったから、まだよく分かってないんだ」
「そうか、それは大変やな。親御さんも心配してるやろ。でも、こっちの言葉はどこで覚えたんや?」
うわっ、どんどん突っ込んでくるな。もう訊くなよ。
この翻訳指輪とか、オーパーツというか、こっちの世界基準でも有り得ない性能である気配がプンプンするぞ。喋ったらどこで手に入れたとか言ってくるよな。
あえて、ダン達が神様だって暴露することで記憶を強制的に消して、この場から逃げる選択肢も最終手段として有りかもしれない。
とりあえずは、そこまで行かなくとも逃げの言葉だ。
「秘密だ。すまんな」
「まぁ、なんか事情があるんやろうな。カレンはこの国の人間やろ?」
「あぁ、シャールで奴隷商から買ったんだ」
「なんや!?奴隷なんか!?」
じいさん、かなりびっくりしていた。
「今は違うよ。違うってダンが言っていた」
じいさんは少し黙ってから口を開く。
「お前ら必要ないやろ?なんで、あんな小さい子を買うんや?」
「可哀相に思ったからかな」
「いや、他にも可哀相な奴はおるやろ」
「……そうだろうな」
カレンちゃんの村を見た時に、子どもの奴隷はいた。奴隷は一生奴隷なんかな。気にしてもどうすることも出来ないが、やりきれない感情が出てくる。
「カレン以外の他の三人は何なんや?」
その質問は来ると思った。むしろ、知りたいのはそっちだろうと思っていた。
「上流騎士だと思って欲しいな」
以前にじいさんが言ってた言葉を覚えていて良かった。
「カハハ、そうやったな。知らない方が幸せな事もあるちゅーことやな」
そうそう。
知った瞬間に記憶を消すって言ってたからな。これはブラフじゃないと思う。それに俺みたいに何かの間違えで自分の名前も忘却させられてしまうかもしれない。
あと、考えたくないけど、俺が日本人だというのも嘘の記憶かもしれないのか。いや、そこを疑うと気がおかしくなりそうだ。
知らないだけでなく考えない方が幸せな事もあるのな。
背後の木窓が開く。
俺は話題が話題だっただけに体がビクッとした。じいさんが普通だったのは流石だ。元冒険者として肝が座っているんだろう。
アンドーさんが顔を出して言う。
「そろそろ休憩。あいつらに会ったとこに近い」
絶対、じいさんと俺の会話を何らかの魔法で聞いていたな。油断大敵、アンドーさん。
まぁ、俺にも都合が良かったから助け船を出してくれたんかな。
「さっきの、聞いてたん?」
じいさん、スゲー。笑顔でストレートに言い放ったぞ。
アンドーさん、無言で頷いて窓を閉めた。
「……地獄耳過ぎやで。怖いわ」
じいさんの呟き後に、また木窓が開いてアンドーさんが見えた。で、すぐに閉める。
マジ怖いわ。じいさんは苦笑いしていた。




