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じいさんの魔法

「さっきの石運びの奴、なんで倒れたんだ?」


 俺は御者台で揺られながらじいさんに訊く。じいさんは俺が半分に割ったパンを食べつつ答える。

 もう半分は既に俺のお腹の中だ。甘酸っぱいジャムが入っていて旨かった。


「魔力切れやわ。あんな重いもんを入れたら維持するの大変やろ」


 そういうもんなんかな。


「アンドーさんなんか、いくらでも収納しても平気だぞ?」


「あの嬢ちゃんが凄すぎるねん。収納魔法は便利やけど、入れてる間はずっと精霊さんに魔力をあげなあかんのやで」


 まぁ、アンドーさんは桁違いなんだろうな。何せ神様だし。


「魔力がなくなると倒れるもんなんか?」


「はぁ?ナベ坊、学校とか教会とかで勉強してへんのかいな」


 じいさんがこっちを見て驚く。

 いや、まぁ、大学で一応学んでたんだよ。日常生活では役に立つことの少ない工業化学専攻だったけど。


「魔力が体中を巡ってるから、血も回ってるんや。心臓の力だけやないんやで。ナベ坊は知らんやろうけど、血以外にもリンパ液っていうのも魔力で体中を循環してるんや。感覚や筋力とかも魔力の仕業なんやで」


 ん?筋肉は電気信号で動いるんじゃないのか。

 いや、キラムでティナから『魔力で体を補助している』とか言っていたな。魔力なしでの体がどう動くか分からないから、逆に魔力が生命維持の全てと考えられているのか。


「そうか。だから、魔力切れで貧血になったり、動きにくくなることがあるんだな?」


「そや。死ぬまで消耗することは少ないんやけどな。盗賊に襲われた時にアンチマジックを掛けられたらやろ?よーナベ坊は動けんなあと思ったで」


 俺は体内に全く魔力がないからな。


「とはいえ、盗賊も動いてたじゃん。カレンちゃんもな」


 答えはティナから聞いて知っているけど、一応確認しておこう。


「味方にもアンチマジックを掛ける阿呆はおらんで。あれは、仲間内には掛からんよーにしてたんやろ。カレンは……死ぬ気で走ったんやろな。刺されたナベ坊の助けを呼びたかったんとちゃうか」


 おぉ、あのカレンちゃんの素早い逃避は、やはりその理由か。俺の中のカレンちゃんの株が急上昇中だ。



「俺も立っとくだけで精一杯やった。それをあの馬好きの嬢ちゃんも胸が大きい嬢ちゃんもナベ坊も動けてたんや。たまげたで」


 なるほど。あの時の状況を改めて知った。



 盗賊とやり合った時の事を黙って思い起こす。

 俺がアンチマジックに掛かっていたら盗賊のナイフが首に向かって来た段階で動けず殺されていた可能性があったのか。ティナやアンドーさんが助けてくれたとは思うが、危機的状況だったんだな。


 俺がそんなことを考えていたら、じいさんが前を向きながら喋る。


「チャールカの村の事を覚えてるやろ?」


 どこだよ。俺がきょとんとしているとじいさんが続ける。


「シャールを出てから最初に泊まった村や」


 あぁ、そうだったのか。そこは覚えているぞ。

 でも、じいさんは何の件を言っているのか。

 想い出に残ってるのは、行商人にリンゴをやったことと、売り荷を全部買い取ったことくらいだぞ。

 そういや、行商人の息子から貰った、あの蜂蜜旨かったな。あいつに出会ったら、また貰おう。



「チャールカは分かったが、何かあったか?」


「ほんま、嫌なヤツやな!」


 突然どうした、じいさん。まさか、ボケの兆候じゃないだろうな?怒りっぽくなるとか聞いたことがあるぞ。



「盗賊とやり合うって、胸の大きい嬢ちゃんがゆーたやろ。その後にナベ坊に俺は魔法を掛けたんやで」


「えっ、全く覚えてないぞ」


 もしかして、記憶操作系か。

 じいさんみたいな一般人でもそんな物騒なもんを使えるなら、さっさっと元の世界に戻りたくなるぞ。

 朝起きたら隣に知らない男がいて、尻の穴が痛いかもとか絶対嫌だぞ。泣くためのシャワー室もないんだぞ。


「≪告白(カンフェス)≫や。昔から俺が得意にしてる魔法や」


 本当に全く身に覚えがない。何を告白させようとしたんだ。


「でっかい兄ちゃんは見た目にも強そうやわな。それに、カレンは置いといて二人の嬢ちゃんも底知れぬ感じや。ナベ坊にしても、世間ずれし過ぎてんねん。せやから、ちょっと知りたくなって、一番弱そうなナベ坊から正体を聞き出そうとしたんや」


 あっ、あれか。あの妙に声のトーンを変えて『何もんや』とか言っていた時か。


「効かんかったわな。自信あったんやけどな」


 じいさんの自信がどの程度の裏付けがあるか分からんが、所詮は御者のレベルだからな。すまんな。


「まぁ、詠唱無しやから本気やないんやで」


 詠唱は本気になった時にするもんなのな。サンキュー、じいさん、勉強になる。それでも、大したことがなさそうと思ったのは、本当に申し訳ない。


「村の中で魔法は禁止なんじゃなかったか?」


「まあな。いくら村外れの馬車置き場でもあからさまにはあかんやろうな。やけど、気付かれんかったら使ってないのと一緒やろ」


 まぁ、ルールを律儀に守る必要もないか。じいさんなら、ばれても笑って適当に誤魔化せそうだしな。


「正直に訊くわ。ナベ坊は何もんなんや?」


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