石を採りに山へ
ビデオが終わって、画面は暗転。
ビデオデッキが自動でテープを巻き戻す音が聞こえる途中で、アンドーさんが指ぱっちんでテレビごと収納魔法で消した。
「さて、次はスードワットやらに会いに行くか。その竜は神ではないがな。何か知っていると期待している」
ダンが皆に言う。
「それが良さそうね。あの岩の封印をしたのがここの神様っぽいかな」
「そう。強めの精霊で囲っていた。人間や竜ではなさそう」
結論が出たところで、俺たちは馬車の所に向かう。
俺は大人だからな。ビデオの中で言っていたダンとアンドーさんの最後の無礼な会話は無視してやる。
誰も触れないのが却って、心苦しいがな!
カレンちゃんと御者のじいさんは、まだ木の棒でチャンバラ遊びを続けていた。
あれ?じいさん、結構必死じゃない?
カレンちゃんの突きがたまにヒットする。じいさん、痛くはなさそうだが、避けきれてないな。
俺たちが近付いたところで、カレンちゃんが棒を捨てる。
じいさんはようやくという感じで尻もちをついた。
「じいさん、無理するなよ」
俺は肩で息をしているじいさんに声を掛ける。
「……嬢ちゃん、強いで」
「じいさんよりも?」
「いや……こっちは手加減して攻撃してへんけどな。昨日と違うて長かったから辛かったわ」
良かった。小学生に負ける歳じゃないだろうからな。
さて、じいさんが回復してから出発しようかと思ったところで思い出した。
「じいさん、この村でスーなんとか石って売っているか?ギルドで買って帰るのを薦められたんだ」
ギルドのローリィが依頼受付の時にキラムに行くなら序でにという感じで教えてくれたヤツだ。
「あぁ、スーナヤ石やな。けど、運ぶのは手間やで」
さすが、元冒険者。もう息が整っている。
「じいさんが秘密にしてくれるなら、アンドーさんの収納魔法で運べるぞ」
秘密にしとかないと、またローリィが大声で騒ぎそうだからな。
「そやな。あの嬢ちゃんなら、いくらでも持って帰れそうやな」
じいさんはそう言いつつ、馬車に近寄って出発の準備を始める。
「ほな、買いに行こか。も少し山の方にあるんやわ」
村を出る際に入村手形に村の人からサインを貰ってから、馬車は山が連なる方面に進む。
登り坂なので馬の歩みは遅くなる。
それでも、30分程度で目的地に着いた。
剥き出しの崖が見えた。あれが石切場かな。手前に広い空き地があったが、結構な草が覆い繁っている。
「10年ほど前までは繁昌してたんやけどな。石切りの魔法使いが死んでもうてからは、廃れてんのや」
「石を切り出すのは道具でしないのか?」
「奴隷を使うんやったら道具やな。普通は魔法でした方が早いやろ」
木で出来た小屋が何軒かあるが、全部ボロボロだ。人は住んでなさそうで、扉にも苔やキノコが生えている。
あっ、いや、一軒は人がいるな。半分開いた扉から人影が見えた。
「おったな。山に入っとったら見つけれんかったかもな」
じいさんはその家に入って、男性と話をする。しばらくすると、二人で山の方へ向かっていった。俺の方にも手招きする。
山の一部が切り落とされて、岩石が剥き出しになった崖の前に案内された。
大雨とか降ったら崩れそうだ。よくこんな所で一人暮らしを続けてるものだな。




