ビデオも終わり
「……少し考えたい。つまり、お主の下に入ろう」
ガイコツは当然ながら無表情で答える。
それにダンが嬉しそうに笑う。
「分かった。では、お前の仕事だが、俺の子の守りだ」
「なっ!?俺は魔王と呼ばれた者だぞ!それに対して子守りだとっ!」
ガイコツは顎をいっぱいに広げてそう言った。
俺もダンが何を考えているのか分からない。
「あぁ。上司に二度も同じことを言わすな」
「しかし……この姿格好では笑う子も泣くであろう」
そう言って、両手を広げるガイコツ。
正論だな。二、三歳くらいの子供なら一生のトラウマになりそうだ。少なくとも夜泣きとオネショはひどくなるぞ。
「三日で慣れよう。まずは自分の職務を全うすることだ」
本当にいいのか、ダンよ。嫁さんにどやされるんじゃないか。後から悔いても遅いんだぞ。
「子守りをしたことがない。特に人間の子供など部下の餌としか認識していない」
「食べられるものなら食べるが良い」
「そうでなくとも破壊衝動で殺したらどうするのだ」
「俺の子だ。だから、その場合はお前の身を心配しろ」
神の子供は、やはり神なのか。
そうだとしたら、心配は要らないだろう。
「ぐっ……主の子であるからか。分かった。まずは命令に従おう」
アンドーさんが足をプラプラさせたまま言う。
「死にたくなったらいつでも言え」
「ガハハ、ダメだぞ、アンジェ。こいつは、もう俺の物だ。勝手に壊すなよ」
ガイコツはアンドーさんとダンにそれぞれ礼をする。
そして、両手を広げて上に掲げる。黒い光が集まり、手に一振りの剣が現れた。
「スードワットを滅殺するために練り上げた魔剣である。我には不要となったため、主らに与えよう」
いや、こっちにも不要だろ。
考えろよ、ガイコツ。聖竜を滅ぼす意味がない。アンドーさんやダンを何だと思っているんだ。
しかし、これは奴にとっては感謝の印なのか。受け取らざるを得ないかもな。
「不要」
にべもないな、アンドーさん。俺も思ったが口に出すなよ。ガイコツさんに失礼ですよ。
ダンは何も言わずに受け取った。さすが、男前。
そして、収納魔法を使ったのか、その剣は消え去る。
「よし。では、今からお前を転送する」
ガイコツは直立不動だ。
「この手紙を最初に出会った奴に渡せ。あと、俺の嫁は怒らせるなよ」
「カカカ、主が怖れる程の女傑なのか?」
ガイコツがダンをからかう。が、ダンは深刻な顔で告げる。
「お前など、即刻粉砕されるぞ……。カルシウムパウダーに生まれ変わって畑に撒かれるぞ……」
余りの真剣さにガイコツは思わずだろう、神妙に頷いていた。
ガイコツはダンが出した紫の箱に覆われて転送されていった。俺の知らない、ダンの家族のもとに行ったのだろう。
後にはダンとアンドーさんが残されている。アンドーさんの指ぱっちんで二人も無言で消えた。
カメラは慌てて入り口に猛スピードで戻っていく。途中で真っ暗になるが、光る玉が出現して、周囲を照らしながらカメラを誘導した。
暗くなったのは、この宮殿自体を元の地中に戻したからだろうな。
カメラが再び二人を映した時は、二人とも階段の前で立っていた。
「アンジェ、封印はどうしたものか?」
「このままで良い?」
あぁ、さっきの宮殿を元に戻すか思案中だったのね。
「うむぅ、地中にある上に封印すべき者もいなくなれば良いか」
「では、それで」
二人は階段を上がっていく。
ここは早送りだな。
地上に上がったところで再生ボタンを押す。
まだ周りは明るい。といっても夕方には近いのか。
おかしい。この時間なら俺たちの夕食に間に合っているはずだ。
「ダン、戻る時も除虫しながら?」
「あぁ、もちろんだ」
これか、これが原因か。
「止めろよ。待たされるこっちの身にもなれ」
「では、こうしよう。シャールに戻って一泊してはどうか?」
いや、転移するならキラムに戻ってこいよ。
「ナベ達は?」
「ナベもたまには一人で部屋にいたいであろう。あいつも男だ。事情は話さなくとも分かるだろう?」
おい!どういう配慮だよ!どういうつもりだよ!!
「あぁ。……想像した。キモい。が、そういう処理も必要」
アンドーさんも納得するなよ!想像もするなよ!!
ダンの発想がゲス過ぎるって突っ込むところだろっ!!
「お前、ナニしてるんだ?ってヤツだな。ガハハ」
全く面白くないぞ。
くそっ、俺のいないとこでなんて会話してやがる。
ビデオはその後、シャールの宿屋に映像が切り替わる。
アンドーさんはカメラも一緒に転移させたのか、激しいカメラワークはなかった。宮殿の中でも一緒に転移すれば良かっただろうに。
部屋に戻ったダンのイビキ映像でビデオは終わる。




