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宮殿のガイコツ

 映像に視線を戻す。



 二人が立つ部屋の反対側の一段高くなった所に椅子に座ったガイコツがいた。その椅子は必要以上に高い背もたれや細かい意匠の肘置き付きで、宝石がふんだんに用いられていた。

 何よりも全体として黄金色で、明らかに分かりやすく王座だ。


「封印を解かし、愚か者共は主らか。まずは礼を言おう」


 どっから声出してんだよ。と思ったら、喉の辺りに魔法陣が見えた。あれが空気を震わせているのか。


 ダンがガイコツに話し掛ける。


「礼は有り難く受け取っておく。ところで、お前は誰に封印されたのだ?」


「カッカッ、いきなりだな。よかろう、我も気分が良い。そうだな、名も知らぬ人間共だった。我が宮殿の外から術を掛けたようだな。しかし、愚者が竜を伴って戦いを挑んできたが封印のための時間稼ぎ目的だったとはな」


 ガイコツの顎骨が喋る度に上下に動く。んー、気持ち悪いな。目の奥も漆黒で見ていると背中がゾワゾワする。


「では、その愚者の名前を知りたい」


「主らもその愚者に劣らず愚かであるな。人間ごときの名など興味もないわ。食材の分際で、頭が高いぞっ!」


 ガイコツが言い終えると同時に、手で宙を横に薙ぐ。

 土埃を上げながら真っ直ぐ何かが走り、刃のように鋭くダンを襲った。

 

 それを無抵抗に胸で受け止めて、何も無かったかとばかりにダンは喋る。


「そこを何とか思い出して欲しいのだ」


「早くしろよ。泣かすぞ」


 アンドーさん、ガイコツは涙腺がないと思いますよ。無茶は言わないで欲しいです。


 ガイコツは座ったまま、顎を動かす。薙いだ腕は肘置きに戻して、鷹揚と座っている。


「我の力が戻るにはまだ時間が必要か。いいだろう。主らの最期への手向けだ。竜は白かったな。あぁ、スードワットだ。あの竜は」


 それを聞いたダンとアンドーさんは、顔を見合わせる。誰だよ、それって感じだな。

 御者のじいさんが人生を賭けて探していた伝説の竜だ。

 そもそも、そいつの神殿に一緒に行っただろ。


「知らない。他には?」


 向き直って放ったアンドーさんの問いにガイコツは沈黙した。表情がないので何を考えているのかが本当に読めない。


 ちょっと沈黙が走る。

 ガイコツが喋るのをもう少し待てば良いのにとは思ったが、ダンは口を開く。


「アンジェ、もう良いか。さっさっと記憶を読んでしまおうぞ」


「あぁ。そうしよう」


 また物騒な事を言っているが、確かに手っ取り早いな。


 と同時に、ガイコツとの間に二つの大きな光球が発生する。光が消えると巨大な斧を持つ全身鎧の化物が二体、主人であるガイコツを守るように現れる。2m近い身長であるダンの倍くらいはあるか。


「カカカ、愚かなる者共よ。彼我の力量を考え発言すべきだな」


 ガイコツの顎が何回も動く。笑っているんだろうな。上下の歯がぶつかる音も部屋に響く。その不気味な音の中、鎧の化物はゆっくりとダン達に近付く。

 ガイコツも最初から話をするつもりはなかったんだろう。


 それに合わせて、ダンは腰の剣を抜いて剣先を斜め下に構える。

 

「任せた」


「任された」


 二人の短い言葉のやり取りの後、ダンは剣を逆袈裟に振る。動きが鋭すぎて見えなかったが、構えと剣の位置からそう判断した。同時に、剣軌道を切り取った様な弧が紫の光となって放たれる。


 ダンが放ったその光の弧は飛距離毎に段々大きくながら、猛スピードで巨大な鎧の化物を突き抜け、壁さえも透けていった。


 光が通り抜けた後、化物は動きが止める。

 よく見ると、鎧の光が通った所に黒線が見えた。そして、その跡に沿って体の上部がずれ始め、やがてバランスを崩して無造作に床に落ちる。



「一撃とはな」


 ガイコツはまた、歯を当てて笑う。

 王座の背もたれにも弧が当たったのであろう、斜めに切断されていた。ガイコツよりも高い部分だったのが奴にとっては幸いだったか。

 下手したら、ガイコツ自身も一撃で終わっていたんじゃないか。




 そこでティナが声を上げる。


「ちょっと、なんで私を呼んでくれてないのよ!チョー楽しそうじゃない!」


 闘い、大好きなんですね。分かっています。黙っていて下さい。



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