アンドーさんの魔法
「何もないか?」
立ち上がってシートをばさばさして土などを払っているアンドーさんにダンが尋ねる。
「祠の下、大きな岩がある」
「ん?そうなのか」
ダンが目を瞑る。しばらくしてから口を開く。
「岩と言うよりも岩盤だな。ん?内側に何か隠されているな」
「そう。行く?」
「他にすることもなさそうだ」
結論が出たところで、アンドーさんが指ぱっちんをする。
地面に人が通れる大きさの階段通路が作られる。所々の天井に白い照明もあって奥まで明るいが、映像では最奥は見切れて確認できない。
二人は無言でその階段を下りていく。長い階段なので、少し早送りだな。
階段の終点は土で汚れた灰色の石壁だった。ゴツゴツしている。
ダンが手をその壁に当てる。
「封印系だな」
アンドーさんも手で触れて確認する。
「解く」
ダンが少し下がって場所を作り、アンドーさんが岩に両手を付く。打ち合わせもしてないのに、スムーズな動きだこと。
そして、ダンの指先から紫の光が出た後にアンドーさんが口を動かし始めた。
『万物の支配者であり、全てを超越する我、アンジェディールが命じる。常夜の嘆きは現世の泡沫。ましてや、火喰らう鳥の住まう峰においては。其は彷徨い、縛られ、堕ちた者。儚く脆い現世に顕し、我を導く』
おぉ、呪文だ!きっと呪文に違いない!
俺は画面を見ていたアンドーさんに声を掛ける。
「格好いいよ、アンドーさん!なんか、神様っぽいぞ」
「……いや、神だから」
少しばかり恥ずかしそうにアンドーさんは答えた。
ん?誉められなれてないのか。かわいらしいな、アンドーさん!
「アンジェの詠唱なんて、久々に聞いたわ。そこまで堅い封印だったの?」
コーヒーが苦かったのか角砂糖をカップに入れながらティナが訊く。それにダンが答える。
「なかなか見ない類いでな。中身を完全な形で封印前に戻すためにアンジェを頼った」
「ダンも何か指先から出してたけど?」
俺は映像を巻き戻してそのシーンで一旦停止した。
「あぁ、アンジェの封印解除が外部に洩れないように周囲を遮断したのだ」
ここの神様に対しての隠蔽工作か。入念なことだ。
二人とも慣れた感じで行なっていたが、以前から何回もこうした隠蔽を繰り返しているんじゃないか。
俺が再生ボタンを押したところ、アンドーさんが早送りする。
「どうした?アンドーさん」
アンドーさんは画面を見ながら言う。
「恥ずかしいだろ。赤面だ」
画面は今からアンドーさんが呪文詠唱するところだった。まぁな、分からんでもない。なんか難しい言葉を難しい顔で言ってるからな。
でも、魔法を使ってるという感じでとても素敵ですよ、アンドーさん。




