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祠までの道中

 映像はダンとアンドーさんが村を出るところから始まる。ただただ二人とも黙って並んで歩き続けていた。



 ……一分くらいで飽きた。

 このシーンはもういいだろ。俺は側にあったリモコンで早送りをする。



 高速で二人が歩く。画面の左下にテープの時間が表示されているが、一時間半くらい歩いたところで、二人は道に逸れた。


 危ない。リモコンでの早送りに気付かなければ、無駄な時間を過ごすところだった。二時間テープなら、二人が街道を行くシーンだけで大半が終わる無声ムービーになってしまうぞ。


 そこから通常再生に切り替える。



 ダンが指先から紫の光を出す。

 目的は分かる。虫対策をしてるんだろ。草むらにはいっぱいいるだろうからな。


 アンドーさんを先頭にして10歩くらい歩いたところで、またダンが立ち止まって虫駆除を行なう。

 それをずっと繰り返していた。


 痺れを切らして、画面の中のアンドーさんが言う。


「一回で纏めて消せよ」


 アンドーさんがダンにそんな口を叩くなんて、相等苛立ってるな。そして、俺もアンドーさんに同意だ。


「いや、生態系への影響を最小限にな。環境に優しくだ」


 画面の中のダンが返答した。わざわざ、最後の一文は画面下にスーパーが出た。無駄に凝ってるな。そんなに強調したい部分なのか、嫁さんにとっては。



 隣にいるダンを見たら、少し居心地が悪いようだ。

 画面の中ではない、横にいるアンドーさんが


「大丈夫。ここだけで字幕加工は飽きたみたい」


 それにダンはため息とともに安堵した表情になった。相当恥ずかしいのか。


 ここも早送りだな。俺はリモコンのボタンを押す。



 早送りの中でもダンは虫の駆除を続けていた。

 呆れきったアンドーさんは先に独りで進んだようで、画面に映らなくなった。

 画面には孤独な男が進んでは立ち止まって光を放つという謎の光景だけが映し出されていた。


 本当に記憶を直接渡されなくて良かった。こんな経験まで移されていたら頭がおかしくなるところだ。パン工場のコンベアでトッピングを乗せるバイトの方がまだマシなレベルだぞ。


 最高速度の早送りでも延々とダンの作業は続いている。

 俺たちは朝食を食べながら、テレビの中のダンが祠に着くのを待つことにした。

 ダンの嫁さんよ、編集でカットしとけよ。お前もこんなシーン、二回も見たくないだろ。

 それからアンドーさん、媒体をDVDにしておけよ。チャプター飛ばし機能が必須だぞ。


 変化のない動画を見るのは辛くて、カレンちゃんなんか、『ガインとこに遊びに行く』って部屋を出て行ったぞ。



 画面の時間表示が6時間を経過したところでダンは祠にやっと着いた。

 アンドーさんは大木の下の日陰で昼寝中だ。ピクニックシートを引いてかなりリラックスしてるな。

 この6時間表示が俺の世界での感覚と同じなら、俺たちが山の頂上でカレンちゃんの村を見ている頃か。



 到着したダンが寝転んでいるアンドーさんに声を掛ける。


「待たせたな」


「あぁ、本当に」



 アンドーさんの言葉は辛辣だが、俺も分かる。たぶん、この映像を見ているティナもそう思ったのだろう。

 アンドーさんを見ながら労りの言葉を掛ける。


「大変だったね」


「全く。虫が寄ってこない結界でも自分に張れば良い」


 アンドーさんの言葉にダンが反応する。


「おぉ、その手があったか!」


「マジ?」


 アンドーさんが驚愕している。無表情なアンドーさんがそんな顔をすると、心底驚いているのが分かる。まぁな、あの最初に駆除している場面でダンに言ってやれば良かったな。ご苦労さん。


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