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二人の帰還

 朝になって二人は帰ってきた。

 朝帰り上等か。この不良息子、娘が!


 林檎だけではお腹が満たされないのよ。早く炭水化物を出してくれ。


「遅かったじゃない?」


 ティナが二人に言う。


「うむぅ、意外に手こずった。そちらは、無事、カレンの願いを叶えられたようだな」


「まぁな。で、何をしてたんだ?」


 俺が尋ねている間にカレンちゃんの切ない目に気付いたアンドーさんが朝御飯を出す。パンと茹で玉子、ジュースに目が行く。



「祠の下に遺跡があってな。少し探索してきた」


「遺跡?ティナからはそこには何もないって聞いていたぞ」


 俺はシャールを出て最初の休憩時にティナと話したことを思い出していた。


「そうよ。私のマップサーチでは何も見つからなかったわ」


 ティナが同意する。


「遺跡自体が完全に土に埋まっていた上に隠蔽性の結界が張られていたからだろうな。ティナは神の痕跡探しに目が行きすぎたんじゃないか。まだまだ甘いな、ガハハ」


 ダンが笑い声が部屋に響く。ティナをちらっと見たが別に悔しそうな表情はしていなかった。


「私の得意じゃないからね」


 得意かどうかの基準が人間とは異なるんでしょ。

 そういえば、料理については明らかに得意不得意の領域からかけ離れた、呪われてるレベルだったしな。



 あと、神というキーワードが出てきて、カレンちゃんがどう反応しているか気になって、そっちを見る。


 椅子に座って、行儀よく食事していてた。

 行儀が良いのは姿勢だけで両手にパンを持っていたがな。


「ん?ナベも食べる?」


 いつも通りのカレンちゃんだな。口端がバターで照かっている。

 大丈夫、食べるのに夢中で聞こえてない。俺はジュースの入ったコップを手にして喉を潤す。


「で、こんな時間まで何をしていたんだ?何か収穫はあったのか?」


 二度目の同じ質問だ。『朝帰りなんて、まだまだ早いですぞ』と、年頃の娘を持つお父さんの気分だ。


「説明すると長くなるかもしれないからな。ナベの脳に直接、俺の記憶を流し込んで良いか?」


 やめろ。記憶操作的なものは絶対に受け入れないぞ。断固拒絶だ。


「口で説明しろよ。お前の余分な記憶も入ってきそうだ」


 ダンのトイレ風景とか、シャワー姿とか強制的に教えられたらPTSDものだ。悪夢そのものだ。


「ナベは失礼。ダンは信用できる」


 アンドーさんが言うが、ダンは少し考えている様子だった。


「しかし、効率は一番良いぞ」


「断る!」



 アンドーさんが仕方なさそうに次の提案をする。


「映像を出す」


「映像?」


「ダンと二人きりだから撮っていた。誤解は嫌」


 誤解?俺たちにか。


「ダンの奥さんに撮影と編集を依頼」


 そうか、ダンの嫁達に対してか。そういう意味で何もなかった証明作りをしていたのか。


「なっ!聞いていない!!」


 妙にダンが大きい声で反応する。それに静かに答えるアンドーさん。


「聞いたら意識する。私は優しい」


 優しいのかは置いてアンドーさんはそう言うと、指ぱっちんする。

 この指ぱっちんはダンの指先から光を出すのと同じで魔法を使うときの合図みたいなものなのだろうか。でも、ダンの方は合図というよりも魔法を実行している時のエフェクトか。


 でっかいテレビが出てきた。奥行きのあるブラウン管タイプだ。

 よくこんなものを知っていたな。今時の若者なんて薄型テレビって言われても何が薄型か分からないくらいだぞ。


 アンドーさんの手には歴史的遺物と呼んでも良いビデオテープが握られていた。ほんと、お前、いつの時代から俺の世界に来ていたんだ。

 タイトルにドラマ武田信玄とか書いて、中身は裸の成人たちが色々するヤツとかなんだろ。親父に聞いたことがある。女子校生という肩書きのおばさんが出てくるんだ。

 同じ感じで、アンドーさんとダンのねちょねちょシーンだけは出てくるなよ。児童なんとか法違反だからね。


 アンドーさんはテレビの下に置かれたビデオデッキにテープを入れる。



「アンジェ、凄い!何、その黒い箱!!ギュインギュイン言ってるよ」


 ビデオが回る音だね。カレンちゃんが目を張ってアンドーさんに尋ねる。


「ブイティーアールという魔法。昨日の想い出が映る」


 まんまだ。適当に名付けただろ、アンドーさん。


「すっごい!何か格好いいよ」


 テレビが点いて昭和を思い起こす砂嵐画像の後、画面が暗転する。その後にどこかの荒れた海が映る。波が岩にぶつかって飛沫が飛び散る。

 芸が細かい。最初にそんな感じの映像が出て製作会社の社名が出てくるのあったよな。



 次に何か綺麗な人が出てきた。


「愛するダンへ。愛を込めて」


 二回も愛なんて言うなよ。どれだけ好きなんだよ。

 これがダンの嫁さんだろう。これだけ綺麗な人がいるのに他に499人の妻がいるのか、何て贅沢だ。

 嫉妬だ、嫉妬の感情で俺は焼き尽くされそうだ。


「……嫁だな」


 弱々しく言うダンを見ると、珍しく目を反らす。なんだ、恥ずかしいのか?

 こっちも恥ずかしくなるから堂々としていろ。ローリィの唐突な求婚を受け入れた時くらいの勢いが欲しいぞ。


「メッセージは最初だけ。もう出てこない」


 アンドーさんの説明にダンが少し緊張を緩めたようだ。

 なんか大変だな。嫁さんが苦手なのかな。

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