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依頼を受ける

「ということで、一番簡単なのを紹介して欲しい」


「ということでと申されましても、お二人の異国語では理解できなかったのですが」


 受付はきりっとした顔のままでそう言った。

 ん?アンドーさん、日本語で喋っていたのか。受付に自分達の実力を知らさないための配慮か。


「ですが、本当に一番簡単なもので良いのでしょうか?こちらのパンドー草を採るなど、貴い方に紹介したなど知られたら、私の首が飛びかねません。物理的に。そのような失礼なことはできません」


 失礼と言うなら、さっきの誤読でもう首が飛んでるだろとか思いつつ、俺はダンに言う。


「この受付の人に迷惑が掛からないようにしたい」


「無論だ」


 ダンは腰に下げた皮袋から金貨を出す。


「こっちはギルドへの寄付だ。そして、こちらがお前への感謝料だ」


 金額の相場は分からないが、ダンは10枚ずつくらいの金貨を受付に渡す。まぁ、俺たちの入壁料と同じだ。竜の神殿の鉛筆数本分でもある。大した額ではないだろう。


「……こんなにもよろしいのでしょうか?」


 などと言いつつ、受付は自分のチップ分は早々に机の下にしまい込んだ。上にあるのはギルドへの寄付だけだ。


「構わない。ギルドへは更に上乗せしても良い」


「私の分を上乗せしてくれたらいいのに。いえ、言い過ぎました」


 ダンの言葉に対して、受付は臆面もなく、そう言ってきた。満面の笑みだな。絶対に言い過ぎたと思ってない顔だ。


 ダンが更に金貨を出そうとするのを俺は止めた。受付の人は露骨に残念がっていたが、手続きを進める。


「では、こちらの札を。依頼物と同時に出して頂きますと依頼達成となり、晴れて冒険者としてギルド登録となります」


 俺はそれを受け取ってから受付に訊ねる。


「ありがとう。明日以降に達成でもよいかな?明日からキラムとかいう村に行くんだが」


「よろしいですよ。キラムに行かれるのであれば、こちらの依頼も覚えておいて下さい。荷馬車を向こうで調達してスーナヤ石という岩を運べば、かなり美味しいですよ」


 チップのおかげか、実入りの良さそうな仕事を紹介してもらえた。さすが、お金の力だ。


「宿屋はどこですか?キラムまでの馬車を手配します。明日の夜明けには宿の前に付けさせますから」


 とてつもなくサービスが良い。もしかしてチップの範囲を越えていたか。まあ、楽できるならいいか。


 ダンが宿屋の名前を伝える。そういえば、俺は宿の場所もあやふやだった。迷子になったら死ねるな。


「最初の依頼のパンドー草とそのスーナヤ石はどこで採れるんだ?土地に明るくないから教えてもらえるとありがたい」


「パンドー草は、こんな草です。そこら辺の山に生えています」


 受付がカウンターの下から枯れ草を出す。なんで?初心者用に例を置いているのか。

 ぺんぺん草みたい、これは食べるのかな。ぺんぺん草も春の七草だったか。


「乾燥して使うので干した方が良いですよ。買い取りも高くなりますし、持ち運びが楽です。もちろん、生でもいいですよ。私が採ってきましょうか」


 いや、お前が採ってきたらお前らの依頼の意味ないだろ。お金の力、どんだけだよ。


 続けて、受付の人が干し方のコツみたいなものも教えてくれた。逆さにして葉を重ねないように干すと早いらしい。葉の裏を日光に当てるのがポイントとのこと。何となく知っていたが、ちゃんと教えてもらえるとやり易いな。


「スーナヤ石についてはキラムの村方面で簡単に買えます。できるだけ大きい方がいいですよ。大きければこちらもオマケしやすくなります。費用は掛かるかもしれませんが、大きいのが載るように荷馬車も馬も立派なものをキラムで用意して下さいね。もちろん、明日の迎えの馬車も立派なものにしますね。こんな金蔓は他の街のギルドに渡せないです」


 最後はまた口を滑らせたな。まぁ、そういうことだな。


「了解。それじゃ、また今度」


「それでは、明日の朝、宿までお迎えに伺います。キラムまでは御一緒できませんが物資などはお任せください」



 ダンが宿屋の名前を伝えたりしてやり取りを終え、俺たちはギルドを出た。


「あの草、カレンの村の近くの山に生えてたよ」


 珍しくカレンが俺に近付いて喋る。やっぱり俺にも馴ついてきたようだな。素晴らしい。


「そうなんだ?カレンちゃんの村はどこなんだ?」


「ナバルの村だよ。知らない?」


「ごめんだけどな」


 俺が答えるとカレンちゃんはとても悲しそうな顔をした。泣いてしまいそうだ、どうした、カレンちゃん。俺、ワタワタしちゃうよ。


「私は知っているから大丈夫だよ、カレンちゃん。ちゃんと戻れるよ」


 ティナがフォローしてくれた。そっか、カレンちゃんも帰り道が分からないんだな。いや、村の事を思い出してしまったのかも。


 カレンちゃんはティナに抱きついた。顔をティナに擦り付けているから泣いているのを隠しているのかもしれない。頭を撫でながらティナが言う。


「明日はナバルの村にお姉ちゃんと草を採りに行こうか。ナベ達にはキラムに行ってもらうけどね」


「でも、お父さんが帰ってきたらダメって言ってたよ。それに何日も歩かないといけないよ」


「私に任せなさい。大丈夫。ね、ナベ」


 えっ、俺?あっ、魔法を使わせろということか。


「勿論だ。ティナの力ならすぐにナバルに着くよ。カレンちゃんも泣かなくていいよ」


「……泣いてないもん。ナベ、嫌い」


 むぅ、グサグサ来ますな。なかなか言葉の選択は難しい。

 とはいえ、カレンちゃんは泣いてるっぽいので、ダンとともに先に宿に戻ることとした。ティナとアンドーさんで何とかしてくれるだろう。

 俺はどう対応すればいいのか分からないよ。

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