表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/123

少女、元気になる

 俺とダンは三人がいる大部屋に戻る。

 カレンちゃんは泣き止んでいた。


「落ち着いたか、カレン?」


 ダンが訊くと、カレンちゃんは首肯く。うん、こっちでもそれは肯定でいいんだな。


「二人にも説明しておくね」


 ティナが俺たちのいない間に話した内容を教えてくれた。


 カレンちゃんは農民の両親の下に生まれ、どこかの村で普通に生活していた。

 一週間ほど前、起きたら顔の一部が厚くなったように固くなり、両親と共に村の長老に相談した。途中でカレンちゃんは退席させられたので何を話し合ったのかは分からないが、その夜に母親に足首に名前を彫られた。

 そして、翌日にカレンちゃんを街に連れていくということで父親と旅に出た。道中、父親から、『カレンちゃんがスズメバチの獣人である、獣人とは何か、街に行って奴隷になるべき』ということなどを聞かされた。

 野宿をして朝になったら父親はいなくなっていた。

 前日の話から村に戻れないと察したカレンちゃんは何日も歩いて街に来たらしい。


 親に捨てられたのか。いや、カレンちゃんを奴隷にしてでも殺されないようにしたのか。たぶん両方かな。捨てるだけなら、奴隷なんて言葉を出さずに街へ向かうとだけ伝えれば良かったのだから。

 名前を刻んだのはカレンちゃんであることを体が変化しても確かめられるようにか。その時の母親の辛い気持ちが伝わってきそうだ。


 しかし、一週間であんなに髪が汚くなるとは思えないから、もともと貧しい出なんだろう。服も布製の袋って呼んだ方がいい感じだったし。


 顔の固い部分は寝る度に面積が増えていたらしい。ティナに治してもらって本当に嬉しいとのことだ。


 ん? その魔法をずっと掛け続ければ、蛹にならなくていいんじゃないの。あっ、そうしたら、カレンちゃんはずっと子供のままか。


「で、カレンちゃんはどんな獣人になりたい?」


「羽根が生えて、空が飛べるのがいい。そしたら、またお母さんとお父さんに会えるもん。お父さんと約束したもん」


 頭部が変わってなければ、差別もそんなにされずに大丈夫なのか。後でダンに尋ねるか。


「そっか。じゃあ、綺麗な羽根が生えるといいね。その時はお姉さん、ぴったしの服持ってるから着てね」


「うん、ありがと。でも、頭が蜂になったら………」


 声が詰まる。そして、少し笑って言う。無理に笑顔を作ったな。


「なったら、殺して」


 カレンちゃん、言い終えて涙を流してる。

 苦しんでるな、カレンちゃん。

 俺も目頭が熱くなった。


「大丈夫だ、カレン。羽根は生える。決して自分の命を粗末にするな。お前の親はお前を信じている。お前も自分を信じるんだ」


 ダンがカレンを励ます。

 さすがだ、ダン。

 全てを知って、なお、その返答とは。

 いや、羽根を生やしてやると確信しての発言なのか。いやいや、羽根も不要だろ。ただの人間にしてやれよ。


 何にしろ、カレンちゃんもそこまで言われれば心強いだろう。いい漢だ。



 俺が感動の余韻に浸っている最中に、アンドーさんが言う。


「カレンは幸運。ナベがいる。頭が蜂になっても、ナベが結婚してくれる」


 無茶ぶりが凄すぎてスルーしそうになったぞ、アンドー! しかし、どうにか答えねば。


「もちろんだ。俺はカレンちゃんが好きだからな」


 これでいいのか。これで正しい回答なのか、教えてくれ、アンドーさん!!


 俺はアンドーさんを見る。

 口を歪めて軽く笑いやがった。

 おい! この状況で、そのリアクションはおかしいだろ!!



「ナベは嫌。タイプじゃない」


 まさかのカレンちゃんカウンターを喰らった。これは凹むな。


「私を買ったのも体が目的ね。変態だわ」


 そんなわけないだろ。小学生には一切、断じて興味ない。更に蜂頭の人間を抱く趣味はない。蟲姦はレベルが高すぎるというか、もはや異能持ちだろ。

 そもそも、そんな大人の事情というか、情事をどこで知った。そいつを殴りたい。奴隷制の話をした父親か、父親なのか!

 本当に変態するのはお前だろというのは、絶対に口に出せない。


 まぁ、思いの外、元気になって良かった。


「ナベは大丈夫よ、安心して。でね、明日はお祈りに行くよ。カレンちゃんに羽根が生えますようにって」


 俺の何が大丈夫なのか、どういうつもりの発言なのかティナに問い詰めたかったが、カレンちゃんが先に喋る。


「違うよ。羽根だけが生えますようにだよ」


「そうだね。そうしよう」


 ティナが優しく言う。この微笑みは正しく女神に見える。でも、内心ではダンのように世界に対して冷めた感情を持っているのだろうか。


「お姉ちゃん達は魔法使いなの?」


「秘密だよ。ちょっとだけ魔法使いなの」


 カレンちゃんは目をキラキラさせてティナを見る。


「いいなぁ。私も魔法を使いたいな」


「カレンちゃんが大人になったら教えてあげるよ」


「カレンよ、元気になったところで街を見物しようぞ」


 ダンの提案で、俺達は散歩に出ることとなった。

 気分転換をさせてやるんだな。よく分かっている、さすがダンだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ