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シャワー

 扉が開いて、ティナと女の子が入ってくる。女の子、汚いままじゃん。


「湯が足りなくなるから水で勘弁してくれだって。風邪ひくじゃない。あら、涼しい」


「快適だろ」


 エアコン、ガンガン状態だからな。自分の部屋だったら電気代的に辛いところだ。俺は椅子に座ったまま、扉を閉めているティナの方を見る。女の子はまだ下を向いていた。


「なんだ、魔法使っていいのね。損した気分だわ」


「すまない、ティナ。ナベの誘惑にレジストを試みたんだが負けてしまった」


 嘘をつくな、ダン。完全一致の合意の下だ。


「じゃ、ちゃちゃっとやりましょう。アンジェ、よろしく」


 アンドーさんが指を弾いて音を出す。


 折り戸の扉が付いた箱が突然部屋の奥に現れた。扉の形からしたら家に据え付ける風呂のユニットか??半透明の窓も付いているし。

 いくら広目の部屋といえど無茶だろ、アンドーさん。


 それから、アンドーさんの下僕スゲーよ。仕事が速すぎだろ。こんなもん、こっちの世界にないから設計図から作ってんのか。プラスチック素材とかどうしてるんだよ。

 それにしても、その下僕は一切存在を感じさせないけど、どこにいるんだろう。いつか逢ってみたい。


 俺はまじまじとその大きな箱を見つめる。第一印象は風呂場だったが、本当にそうなのかと確認していたのだ。ここは高級ホテルじゃないんだ。窓ガラスは古くなって白化を始めてるし、床も何ヵ所かに大きなシミがあるような宿屋なんだぞ。電化製品なんかそもそも存在しない世界だし、あるのはベッドとテーブルと衣装入れくらいだ。そんなとこに、いきなり近代的なものが出てきたら脳みそが追い付かないわ。

 

 第二印象も風呂場のユニットでした。


 いつも入っていたけど、外側ってこんなになってるのか。本来は見えないけどパネルと鉄の筋だけで無粋なんだな。

 ちょっと床から浮いてるのは宿屋の建物に重さが伝わらないようにアンドーさんが調整しているのか。



 ダンは無言で指先から紫の光を出す。密かに女の子の服に付いてた虫を取ったな。皆の前で言わないのが女の子への配慮なんだと思う。さすがダンだ。

 若しくは、今気付いて、言う暇もなく慌てて除去したかだな。一刻も早く虫を消し去りたかったか。



「覗いちゃダメよ」


 ティナが女の子の手を引いてて入って行った。女の子、入る所が宙に浮いていても疑問に思わないのかな。普通に入っていった。

 ティナの声だけが聞こえてくる。


「まずは服を脱いで。脱いだ服はこの篭に入れるのよ」


「脱いだら、そこのカーテンの向こうに跨いで行って。大丈夫、私も脱いだらそっちに行くから」


 えっ、ティナも脱ぐの。俺、ここにいたら不味いだろ。いや、見てみたいっていう気持ちも強いです!

 あと、カーテンって聞こえたからトイレも併設されたタイプだな。ビジネスホテルで多い奴ね。


「ナベ、大丈夫だ。ティナは気にしていない」


 アンドーさんが言う。なんだ、痴女的な感じですか。

 分かった。良いなら、堂々とここにいる。幸い、俺の下半身もまだ起きていない。決して起きるんじゃないぞ。とても恥ずかしいことになるぞ。


「はい、では上からお湯が出まーす」


「石鹸で髪と肌をゴシゴシしまーす」


 いや、髪はシャンプー使えよ。ゴワゴワになるだろ。たっかい石鹸なら大丈夫なのか。

 バスユニットの底にある穴から水が出てくるが、途中で空に消える。シャワーで使っているお湯はどこから出てるんだ。配管の中でお湯が溢れ出ているのか。ほんと、無茶苦茶だよ。

 インフラ工事なんか全く不要な世界だな。アンドーさんが特別過ぎるのか。


「では髪を乾かしまーす」


 ドライヤーっぽい音が聞こえる。一々語尾を伸ばしているのはなんでなんだ。その方が女の子受けがいいのか。

 それから、そのドライヤーは電気式なのか。魔力式なら、その無駄なモーター音は出ないもんな。


「次にハサミで髪を切りまーす。緊張しなくていいよ、私はプロ級だから安心、安心」


 俺の髪も伸びたら切ってくれるのだろうか。髭反りもお願いしたい。いや、14歳の体らしいから、あんまり伸びない気がするな。自分で毎日剃り出したのは二十歳を越えてからだった。


「では、切った髪はこっちの袋に入れて服も一緒に入れまーす。アンジェ、そっちの部屋に出すよ」


 ティナが戸から上半身だけ出して袋を置く。

 本当に裸なんですけど。タオルくらい使えよ。片手で胸は隠していたが、豊かな膨らみは隠しきれていない。指に抑えられた横胸の肉感が素晴らしい。素晴らしすぎるよ。

 やばい。俺のが元気になりだした。ここは葡萄で誤魔化すのだ。そうだ!あのドーベルマンと団子虫を思い出せ。全てを憎むかのような闘争心と、不規則に動くあの短い多くの足を。

 収まれ、俺の意思に従わない内なる野獣よ。頼む。


「もう一度、お湯で髪を流しまーす」


 俺が苦悶している間にもどんどんティナの仕事は進んでいく。


「次に体の傷を治しまーす。痛くないよ」


 傷? あぁ、足首とかにあったな。


「はい、出来まーした。そこに服があるから着てね。まずは下着からよ」


 最初から下着支給とは俺との待遇差を感じてしまうぞ。今思えば、何もない解放感も良いものだった。


「ここの鏡を見てみましょー。顔を上げなさーい」


「こらこら、もう大丈夫だよ。見てごらん」


 相変わらず、下向きだったのか。元気を出せよ。

 それにしても、未だに暴れん坊状態から戻らない、俺の大切な部分は女の子をリスペクトするように。いや、使用対象の話じゃない。下を向けってことね。



「少女にあの顔の傷は辛かっただろう」


 俺の密かな苦闘とは関係なく、ダンが俺に教えてくれる。

 えっ、そんなのあったっけ?そういや、俺、あの子の顔、一回も見てないや。見せようとしてなかったのか。


「大丈夫だから。可愛いよ、お顔」


 ティナがまだ優しく言い聞かせている。しばらく沈黙が続く。


「治ってる……」


 女の子の声かな。俺の下の部分も直っているというか、戻って来ているぞ、大丈夫だ。多少それのポジショニングに違和感が残っているが、外観上、不自然な膨らみは見られない。


「直ってるな」


 ダンよ、気付いていたか。でも、口に出すなよ。視線を俺の股間に持っていくなよ。どんな辱しめだよ。

 アンドーさんが少しニヤリとしたのを見逃さない。クソが。


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