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カレンちゃんと再会

「これで、全てが解決したのか?」


 俺は部屋に着くなり、皆に確認する。


「うん、カレンちゃんの事なら大丈夫よ。スーサの許可も下りたんだから」


「フォルシルから何かあるだろうが、それはナベには関係のないことだ」


 うん、関係ない。だから、面倒に巻き込まないでね。


「カレンの所に行く」


 アンドーさんが指ぱっちんで、俺達を白い空間に転移させた。

 懐かしの、俺が最初に連れて来られた空間だな。出してもらった簡易トイレとか手洗い場とかがまだある。

 スーサが土下座していた空間とは別なのかは分からない。



 カレンちゃんはどこだろう。


 探すのは簡単だった。辺り一面が真っ白くて遮る物もないから、空を飛ぶカレンちゃんがすぐに確認できた。


 問題は服を着ずに、無垢な姿で飛び回っていることだな。羽化の時に破れたのか、それともこの何もない空間に感じ入って自ら裸体となったのか。


 あぁ、服がきれいに折り畳んであったよ。後者だな。

 新しい自分を見付けたか、お前も変態万歳でしたか。


「カレンちゃん、自由を満喫しているわね」


 俺はティナの言葉に黙って首肯く。

 しかし、これはダメな自由だろ。カレンちゃんの楽しそうな姿と丁寧に置かれた服を何回も交互に見てしまう。未成熟な女体が見たい訳じゃないぞ。動揺からだ。

 いや、他人が入ってこないプライベートビーチでも似たような行為はあるんだから、特に問題なしだな。きっと問題ない。



 俺達を確認したカレンちゃんが上空から急降下でやって来る。透明に近い細長い羽根が見えた。それを羽ばたかせず、体を横に倒して風を切る。

 凄いスピードだな。

 そのまま床に当たるんじゃないかと思ったところで、頭を起こして体勢を変え、エアブレーキが掛かるように羽根で空気を捕らえる。

 見事に俺達の前で止まった。床に足は着かず浮いたままだ。



「見て。羽根が生えたよ」


 久々に会うカレンちゃんは嬉しそうに宙でくるりと回った。


「分かったから、早く服を着ろよ」


 子供とはいえ、このまま見ている訳にも行かない。

 全てが丸見えだ。恥じらいと慎ましさが欲しいぞ。


「その服、羽根が痛くなるんだもん」


 それは理解しよう。でも、お前、パンツとかまで脱ぐ必要ないだろ。そこにも何か生えたとでも言うのか。


「カレンちゃん、良かったわね。これは私からのプレゼントよ」


 ティナの手には既に服が乗せられていた。

 ゆっくりと宙を舞いながらカレンちゃんに向かい、そして、カレンちゃんの伸ばした手に触れた瞬間に、瞬時に装着される。


 一見素朴な淡い緑色の服だが、輝きすぎない光沢が高級感を醸し出している。

 下は同系色のズボンで動きやすそう。良かったな。スカートなら、空を飛んでいる時に中が見え放題になるとこだった。



「羽根がなくなったよ?」


 床に立っていたカレンちゃんが自分の背を振り向きながら言う。確かに頭よりも高いところに先端があった両羽根が見えなくなっている。


「飛びたいと願ってみて」


 ティナの言葉を聞いて、カレンちゃんはその通りにしたのだろう。ふわりとカレンちゃんが浮く。そして、一気に加速して俺の頭を掠めながら飛び去る。

 ちょっ、危ないだろ。流血騒ぎになるとこだっただろ。



 飛び回るカレンちゃんの背中にはさっきの透明な羽根でなく、光を伴ったものが生えていた。



「なんだ、あの服?」


「ティナが渡した服に羽根が移った」


 アンドーさんが教えてくれる。


「羽根の付根をあの服に変えた。見た目だけ」


 目茶苦茶だな。たぶん本人は羽根をもがれたことを気づいてないぞ。いいのか。


「大丈夫なのか?」


「羽根が生えていたら不便でしょ。それに天井にぶつけて折れたりしたら台無しじゃない。大丈夫よ。あの服はカレンちゃんにしか反応しないようにしたわ」


 ティナが言ってくれるものの、釈然としない。


「俺もあんな飛べる服が欲しいんだが」


「ナベはムリ。魔力がない」


 それは分かってるけど、何とか出来るだろ。腰のナイフとか、この青い筒とか、魔力がなくとも使える道具をアンドーさんは作っているじゃない。


「飛ぶ魔力とあの羽根は別なのよ。いえ、服を着るまでは一緒だったんだけど」


「言い換えると一種の呪いだ。あの服を着ないと飛べない体になったのだ、カレンは」


 ますます不安だよ。勝手に呪いを掛けるなよ。


「ナベ、呪いと魔法は同じよ。ほら、進化と退化が等しく遺伝子変異なのと一緒で、受け手がどう捉えるかだけよ。羽根の手入れが要らなくなって、人間の体を手に入れたのだから、あの服はカレンちゃんにとっては祝福になるはずよ」


 そういうことにしておくよ。

 でも、これでカレンちゃんは村に今すぐにでも帰られるんじゃないか。見た目も特に変わってないしな。



 飛ぶのに飽きたのか、満足したのか、カレンちゃんはまた俺達の傍にいる。羽根音もなく、すっと来るもんだから、ちょっとひびってしまったよ。


「いい感じ、カレン」


「ありがとう、アンジェ。頭や腕が蜂でなくて良かったよ」


 蛹状態の時の蜂頭は確かにやばかったな。あれで声も出せないんだから、事情を知らない人間なら退治したくなるのも分かる。


「戻る」


 アンドーさんが指を鳴らして、宿屋の部屋に帰る。エアコンが効いていて気持ち良い。

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