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竜の補佐

 スードワットは自分の神に言う。


『我が主よ、主が先輩と呼ぶお方を我の補佐とは畏れ多い。我をその先輩の補佐に任命できぬか?』


「ならぬ。知らぬ事とは言え、我が尊敬するナベ先輩と敵対した、その事実に対する罰である」


 それが罰となり得るのか。主人の先輩を部下とする、その遣りにくさが罰なのか。非効率になって、全体的にダメだろ。


『はっ』


 ドラゴン納得したのか。しなくて良いんだぞ。

 俺はお前の補佐なんかできないぞ。

 でっかい排泄物の処理とか絶対出来ないし、したくないぞ。



「ちょっと待ってほしい。俺はそのドラゴンの世話をする気はないぞ」


『何とお呼びすべきか分からぬが――』


「ナベ先輩だ」


 ドラゴンの疑問に即座に答えるスーサ。

 くそ、ダンのせいだな。


『ナ、ナベ先輩、心配はいらぬ。我と共にこの街域を守ろうぞ』


 心配しかないわ。大体、お前の体が臭いんだよ。

 近づいて確信した、この部屋に充満する動物園みたいな臭いの元はお前だ。


「俺にはこの者共を監視する役目がある。ドラゴンよ、お前と一緒にはおれぬ」


 苦肉で俺は竜に言う。精一杯威厳というか虚勢も張らさせてもらった。


『なんと!ナベ先輩は、この底知れぬ力を持つ者共を監視されているのか!?その者どもは一体、何なのか!?』


 先輩は外せ。


「ドラゴンよ、詮索するでない」


 もう一度、俺は偉そうな口調で言ってみた。なんだ、これ。まるで神になったみたいで気持ちいいな。


『はっ』


 いい子だ。そのまま、黙っていろ。

 お前が大人しくしている間に、別の街でお日様の下で生活するぞ。



「俺はこの三人とともにいないといけない、分かるな」


『はっ。つまり、その魔族どもも我らとここに住まうと』


 分かってないじゃん。なんで同居前提なんだよ。


「ダメだ。この者どもはお前と居られない。日に何回もお前の身が切断され兼ねない。それでは街の守護も疎かになるではないか。俺はお前を補佐するために、この者共をお前から離そうと言っているのだ」


『深慮、感謝致します』


 本当に大丈夫だな?分かったんだろうな。では、次だ。

 こっちは、ちゃんと大切な事。



「獣化のシステムは変更できないのか?」


『どういうことでありますでしょうか?』


「少なくともこの地では獣化で不幸になっているものが多いだろ。何とかならないのか?」


 それにスーサが答える。


「それは中々難しいことです。たまたま、この地の今の時代では迫害されている者が多いので御座いますが、基本的には獣化しない者よりも能力が高いのです。犬の鼻を持つ者は嗅覚が、羽根を持つ者は空を飛べ、熊の獣人は腕力が強いという様に。場所が異なれば、崇められる存在でも有るのです」


 カレンは蜂の頭に変わる予定だったが、何に優れるんだ。物を噛み砕くことか。

 俺が考えている間にスーサが続ける。


「この地であっても強い獣人はそうでない人間の上に立つこともままあります。確かに不幸な者も多いですが、それも自然淘汰と考えております」


「獣化しないようには出来ないのか」


「可能です」


「ナベ、獣化をなくしても奴隷はいなくならないよ。奴隷制を止めるかどうかは人間が決めることだし。獣化の出来ない、能力の低い人間しかいないと労働力が不足する事になるしね。奴隷制が続くなら、今より多くの人が奴隷となってしまうかもよ」


 ティナが俺に言う。

 うむ、人間全体として見たら、今のままが効率的かもしれないな。普通の人間が5人必要でも熊の腕を持つ者なら一人で仕事を終えるかもしれない。

 しかし、それはどうなんだ? 生まれつきみたいなもので、全体の為に奴隷とされるのは。



「せめて、普通の人間から余りに変り過ぎてしまうのを無くせないのか? カレンの様な獣化をなくしたい」


「別の場所では崇められる対象であります故」


 埒が開かないな。

 しかし、俺は何に反発しているんだ。

 獣化?それとも奴隷制?


「何だろ、人が自分の意思や能力とは別の所で不幸になるのが嫌なんだが」


「それは傲慢です、ナベ先輩。人の幸福は相対的なものですので、皆を幸せにすることはできません。数多の者が実現しようとして挫折しております」


 スーサが言う。そういうものなのか。ティナもそう言っていたけど、神様は皆、その考えで統一されているのか。


 俺はカレンみたいなヤツを出したくないだけなのだが。



「ナベ、考えても無駄よ。とりあえず、カレンちゃんを救えた、その事実をまずは有り難く思いましょう。悪かったね、スーサフォビット様とスードワット君」


 ティナが纏めに入った。

 俺に妙案があるわけでもなし、深く考えても仕方ないか。おいおい、スードワットに相談を持ち掛けよう。



『我は雌だ』


 性別はどうでもいいぞ、トカゲ。お前が拘っても誰も興味ない。欲情したなら、同じトカゲに言え。


 しかし、雌というキーワードで思い出した。



「ところで、ティナが焼いたメリナは大丈夫だったのか?」


「生きてる。大丈夫」


 アンドーさんが教えてくれた。


『メリナのことであるか。先ほど、神殿に着いたとフローレンスから連絡があった。あの娘には悪いことをした。あとで、私の方からも謝罪しておく。ナベ先輩、これを持っていくが良い。我の補佐という証である。また、メリナの誤解も解けるであろう』


 ドラゴンが何かをくれるらしい。

 先ほどの雌という情報と「先輩」と呼んでくれたことで、一瞬萌えるかと思ったが、逆に気持ち悪いだけだった。


 俺の体が一瞬光に包まれた。なんだ、これ?


『必要はなかろうが、我を召喚するための術式を与えた。願えば向かおう』


 気持ちは嬉しいが全く要らんな。

 こっちにはアンドーさんがいるんだぞ。お前の信じている神様を一方的に蹴り倒せる逸材なんだからな。

 それに、俺に魔力はない。たぶん、呼べないぞ。



「それでは、一足先に」


 スーサの足下に魔方陣が描かれる。

 が、また転移できない。可哀想に。アンドーさん、まだ許してなかったのか。


「こちらこそ、先にな」


「それでは、またお逢いできる日を。ナベ先輩とも、次はゆっくりお話ししましょう」


 お前が俺に聞きたい事が何か分かるが、あいにく、それは冤罪だ。



 アンドーさんの指パッチンで、俺達は宿屋に戻った。

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