万事解決かな
いっ。スーサフォビット、いきなり土下座してるよ。土下座は神様の世界でもあるのか。
「すみません、ダンシュリード様とは露知らず、大変、生意気を申しました。この度は何卒お許し頂ければと存じます」
なんだ、この豹変ぶりは。
「ダン、誰だよ、こいつ? 神様なんだろ?」
「私も知らないわよ」
「シルフォルのとこの序列31025だ」
「えー、シルフォルのとこ30000越えてるの!?」
「50000くらいいたと思うぞ」
ティナとダンが会話しているが、俺は何の事か分からない。
神様の偉さみたいなもんか。
アンドーさんは何してるのか?
俺は傍にいたはずのアンドーさんを探す。
蹴ってた。
結構な勢いで、何回もスーサフォビットの横腹を蹴ってた。
トンでもないな。ひくわ。
「いたっ、いたっ。ダンシュリード様、お止め下さい。私の序列が低いとは言え、下僕に私を足蹴にするのはさすがに問題となるのでは御座いませんでしょうか」
アンドーさん、遠慮ないな。全然止まらないわ。
「スーサよ、すまない。蹴っているのはアンジェディールだ。俺の下僕ではない」
ダンの言葉を聞いて、スーサフォビットは顔を上げてアンドーさんを見る。アンドーさんは蹴りを止めた。
「アンジェディール様で御座いましたか、お初にお目に掛かります」
土下座の体勢は変わらず、神はアンドーさんを下から拝みながら言った。
「よろしく」
答えながら、一発蹴るアンドーさん。
「ウッ、ふぅぅ」
なんだ、その気持ち良さそうな声は。
スーサフォビット、お前は今、堕天しただろ。
いや、違う。神なのに天国に行ってしまいそうな顔だな。
「光栄で御座います。アンジェディール様のお蹴りを頂くとは、このスーサフォビット、幸甚で御座います」
ドラゴンの前で見せていた、あの威厳を思い出せ。
一気に変態誕生だぞ。
しかし、どうなってるんだ。
「説明が欲しい」
俺はダンに要求する。
「あぁ、あいつは知り合いの部下だ。少し前に一緒にいるのを見たことがある」
「部下? 下僕みたいなものか」
「いや、下僕とは違うな。あいつは命令に従わなくともいいし、俺の下に来てもいい。自由だ。ただ、上から降ってきた指示をこなさなければ序列が下がる」
「序列って何?神にも必要なのか?」
「そのまま神の順番だ。序列は力の強い神が他の者を手助けしていく内に自然に発生したものだ。最初は強い神を慕うだけであったが、それが連々と続いて出来上がってしまった。今では神々の中での地位を表すものに変貌している」
神様も偉いのと偉くないのがあるってことか。大変だな、神様も。人間と変わらないじゃないか。
「神なのに独りで解決出来ない事があるのか」
「もちろんだ。最も困難な事例は神同士の喧嘩だな。人の地が破壊し尽くされることもあるので、なるべく控えるようにしているがな」
確かにアンドーさんが本気になったら人間の街の一個二個は消せるだろうし、容赦しなさそうだ。
「厄介事は神の世界だけでして欲しいな」
「ガハハ、なかなかややこしいのだよ」
「今も喧嘩しているのか?」
「そうだな。神にも馬が合う、合わないがあってな。喧嘩しているものもいようぞ。俺はしてないがな」
「ほんと、人間と変わらんな」
「そうだな」
言って、ダンはまた愉快に声を上げて笑う。
「序列が50000人中30000番だと係長か主任的ボジションだな、あいつ」
「うまいな。そんなものだろう」
ダンは愉快に笑う。
「しかし、ダンもやはり神だったのか」
その禍々しい鎧とか完全に疑っていたわ。ややこしいな。
「こちらの世界で最初に言った通りだ。そもそも、アンジェのような力を持つ者など、仮に神でなく魔族であっても、もはや神と呼んでもよかろう」
確かにな。神でなくともやりたい放題だな。
いや、言い換えよう。既に神と思えないくらいにやりたい放題だ。神が土下座している神を蹴るってどうなんだ。
こっち三人の序列も気になるが、聞かない方がいいか。変に地位が高そうだから、今さら、俺が気圧されても困るしな。
「神様ってのは多いんだな」
「うむ。今回のように名も忘れた者、知らぬ者も多いな。シルフォルくらいの有名どころだと皆が知っている。」
アンドーさんが戻ってきた。気が晴れたのだろうか。
俺がダンと会話している間も何回か蹴りの音と変態の悦びが聞こえていたのは気にしないでおこう。
そもそも、何故蹴っているのか判然としない。挨拶変わりか。下っ端ヤクザも顔負けな礼儀不作法だな。
「スーサよ、立つが良い」
「ハッ!」
俺もあの変態はスーサでいいや。
ダンが呼ぶと、スーサはさっきまでの弛んだ顔が嘘のように真面目な顔で素早く立ち上がる。
「あの竜より事情を伝えられているか?」
「いえ、小汚ない魔族に襲われているとしか聞いておりませんでした」
アンドーさんがまた蹴った。
スーサ、顔が幸せだな。たぶん、スーサは分かってやってるな。蹴られたかったのかよ……。
「簡単なことだが、お前の竜の支配下にある獣人一名を我らに渡して欲しい」
「ハッ。ご随意に!」
スーサが機敏に返事する。
「うむ、そなたの快諾に感謝する。シルフォルにも伝えておくぞ」
「ハッ」
これがダンが宿屋で言ってた手続きというものか。やけに簡単だな。
俺はティナに訊く。
「これでカレンは救われたのか?」
「そうね。ごねられなくて良かったわ」
満足そうに彼女は首肯く。
「あいつと戦わなくても良い?」
「三対一だからね、勝てると思うし、向こうも無理だと思ってくれているかしら。序列と強さは関係ないから分からないけどね」
ティナは安心したように溜め息を一つ深く吐く。
「あの竜を殺した方が楽しかったかな。あの神様と殺りあってもいい覚悟だったんだけど」
安心ではなかった。
悪い癖は止めろ。お前らが強いのは知っているが、巻き込まれる俺の身になれ。
しかし、これで万事解決かな。
カレンちゃんは救われる。良かった。




