神様降臨
細面で少し神経質そうな成人男性が目の前にいる。体型も細く、そこに質素な布を巻いた用な服を身に付けていた。最初にこっちの世界に来たときにダン達が着ていたものと同じだな。
その人、いや、神が口を開く。
「傲慢なる魔族よ、我が古き友スードワットとの盟約に従い、滅せようぞ」
うわっ、すぐさま臨戦態勢だよ。問答無用で戦闘が始まるのか。
俺は出てきた男を凝視するアンドーさんを見る。
彼女はじっと見ていた。そして、ポツリと言う。
「誰だよ」
さすがアンドーさん、神様っぽい人を見ても動じないどころか、上から目線。いつも御変わりない点は尊敬致しますが、ご自重下さい。
出てきた男は手を上げる。
途端、俺たちの上に大きな火球が現れた。ジリジリと既に熱い。
「魔族どもよ、頭が高いぞ」
男は一気に降り下ろした。それに合わせて火球も落ちてくる。一番背が高いダンの頭ちょい上で止まる。
俺は思わずしゃがんでいた。しかし、ダンをはじめ、三人は立ったままだ。
あれ? 熱くない。
なんだ、三人の誰かが熱から守ってくれているのか。
「ダン、誰よ、あれ。私も知らないわよ」
「うむぅ、訊いてみるか」
少し悩んだ様子で、ダンは男に言う。
「すまんが名乗ってくれないだろうか。お前が誰だか分からん」
男はじろりとダンを睨み、それからゆったりと、もったいぶって答える。俺達は頭が高い状態のままだが、それは良いのだろうか。
「スーサフォビットと人は呼ぶ。普く世界を束ねる者。つまりは神である。愚者なる貴様らには、信じられぬだろうがな」
男は言い終えて静かにこちらを待つ。
「ダン、知ってる?」
ティナがダンに訊く。頭上でメラメラ炎が蠢いているのに三人は普通に会話をしていた。俺も立ち上がって訊く。
でも、火がいつ落ちてくるか怖いので中腰に近い。
「本当にあいつは神なのか?」
「あぁ、あいつは神だな。ティナ、思い出した。あれはシルフォルのとこの奴だ」
ダンは晴れ晴れとした顔で言う。思い出せてすっきりしたんだな、わかるぞ、その気持ち。
だが、戦闘前にのんびりしてるなよ。
逆にダンの言葉を聞いて、男、スーサフォビットだったかが少し顔をひきつらせた気がする。しかし、それも束の間、落ち着いた声で俺たちに訊く。
「シルフォルとは何かな?」
「やらしいオバサン」
アンドーさんが答えた。
「こら、アンジェ。悪く言っちゃダメよ。いつも上品で笑顔の方よね」
アンドーさんとティナの言葉にスーサフォビットが表情が乱れる。少し焦っておられる?
ダンが追い討ちを掛ける。
「スーサフォビット、俺だ、俺。ついこの間の例会の後に会っただろ。顔をはっきり覚えていなかった。すまない。俺とシルフォルが話していた時に、お前いただろ?」
ダンが笑いながら言う。
スーサフォビットは一瞬、驚愕した。
それから、ドラゴンを振り返り、ゆっくり、またこちらを見る。
「分からぬことを言う。神罰を与えようぞ。だが、その――」
「分かってるだろ」
アンドーさんが指を鳴らす。相変わらず、喋っている途中でも容赦ない。ぶれないな、アンドーさん。こういう時は怒ってるんだよなぁ。
俺達は白い空間にいた。俺がこの世界で最初に寝転んでいた所か。スーサフォビットもいた。ドラゴンはいない。
カレンちゃんはと思ったが、彼女もいなかった。




