金策無用
「なんて書いてあるんだ?」
この中で最も頼りになるやつ、ダンに訊く。彼はあのずっしりと重い背負い鞄を二つも肩にずっと持っているにも関わらず、汗一つ出していなかった。半ズボン超しに見える太股が凄く頼もしい。ただ、そんな格好のせいで体が大きい小学生がそうだったように、いや、それ以上に何か不自然な逞しさを感じざるを得ない。
「ちょっと待て」
彼は看板を見詰める。アンドーさんも読んでいるのだろうか、記号を眺めている。
俺は暇なので、道の先にある城壁の方に視線をやる。立ち止まっていると商人っぽい人にどやされたので、邪魔にならないように道をだいぶ離れた。
遠くの空をプテラノドンみたいな巨大な鳥が群れて飛んでいた。
うん、これは完全に異世界だ。さっきの巨大団子虫では、地味すぎて実感できなかった。すまん、団子虫。
案内板か何かを読み終えたダンが俺の側に来てくれる。
「この先からの注意書き云々であった」
説明してくれた内容はこうだった。
この看板より先で武具の類いの使用禁止。刃が見えた時点で没収及び罰せられる。まぁ、それは兵士の特権ですみたいなものかな。
魔法も禁止。如何なる状況でも行使を検知した時点で厳罰。街中でフォイヤボールとか火事の元だから、これも妥当なところだな。
入壁にあたっては審査手数料が必要な場合有り。また、手数料を払っても中に入れないことがある。関所代みたいなもの?いや、海外旅行のビザ代か。都市国家制だとしたら、有り得るのかな。
「審査手数料とはどれくらいなんだ?」
俺はダンに訊く。そもそも俺たちは金を持っているのか。いや、さっき兵隊に払ったと言ったな。
「さぁな。まぁ、先程の奴のように払った気分にさせてやればいいだろう」
待て。聞き捨てならんぞ。気軽にそんなことを言うな。ちょっと会っただけで思い入れもないのに、さっきの兵隊を気の毒に思ってしまう。
「その記憶操作みたいなものは俺の前でするな。なんか俺もやられてそうで無性に怖くなる」
「あなたには掛けないわよ。でも、病まれても困るから出来るだけ善処するわ。えぇ、前向きに検討させてもらうね」
ティナよ、それでは、『行けたら行くね』くらいの信頼感だ。
「そもそも魔法禁止なんだろ?」
「私たちを人間共が止めるなど笑止」
歯向かう者は全て抹殺くらいの勢いだな、アンドーさん。そういう系の神様なのか。勘弁してくれよ。
「少しはルール守る気を持てよ。力があれば何してもいいなんて猿みたいだぞ」
「私がルールだ。気にするな」
アンドーさんはプロ野球の審判みたいなセリフを吐きやがった。傲慢すぎるだろ、バイト先の店長を思い出したわ。
「ナベがそう言うなら仕方ない。ここのルールを守ろう。今から調達するか」
それに対して、さすが頼りになる男だ。ダンはそう言ってアンドーさんを宥める。
アンドーさんは、いつもの通り指を鳴らす。
すると、革袋が地面にズシンと落ちる。その衝撃が重量を感じさせた。
それで調達なの。もっとこう、真面目にお金稼ぎとかしないのか。ちょっと不満な俺だった。
拾って中身を確認しながらティナが言う。
「これ、立派な金貨ね。出しすぎでしょ、アンジェ」
金貨? 俺もティナが持つ袋を覗く。
初めて金貨なんか見る。意外と小さいものなんだな。100円玉みたいな大きさだ。厚みはもう少しあるかな。
男性の横顔が刻まれた金色のコインがぎっしり入っている。
「普段使いのお金は? 何種類か出しなさいよ」
アンドーさんが次に出したのは厚みの異なる銀貨数種と金貨がそれぞれ別に入った革袋だった。
普段使い用の金貨はとても薄い。イメージ的にはコインというよりもシールに近い厚さだ。勿論、ペラペラしている訳でないので取り扱いに気を付けないと指を切りそう。
最初に出した金貨は背負い袋に入れて、普段使いのお金をダンが革袋のまま腰にぶら下げた。
おいおい、そんなものを見せびらかして良いのか。盗まれたらどうするんだ?
あっ、またアンドーさんが出してくるだけか。
壁に向かう間にアンドーさんと話をする。
「いつもどこから出してるの?」




