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兎との闘い

 俺はまた通路に立っている。アンドーさんに転送されたな。

 体は軽く、痛みは取れている。アンドーさんが転送の序でに何かしてくれたのか。

 兎は俺にのし掛かった場所にはいなくなっていた。



 敵はどこだ。

 さっきと同じように俺は通路の先を見る。

 いた。

 また白い耳、兎さんだ。同じ場所にいる。


 なんだ?アンドーさんがあの兎も元の場所に移したのか。



 さっきと同じく俺が確認したタイミングで兎は跳び跳ねる。

 これまた同じく二回の跳ねで完全に俺の立ち位置に来た。



 俺は壁に寄る。

 先程と違い、少し奥に位置取る。

 ここなら、横飛びもしにくいだろうとの判断だ。杖も振りかぶって準備済み。



 兎が着地。

 予想通り横飛びせず、体を回転させる。

 そこに俺は思いっきり杖を叩き突ける!



 当たった感触はある。渾身の一撃だ。

 が、兎は止まらない。


 また、あの歯を見せる。なんだよ、脅しのつもりか。


 もう一度杖を振り上げたところで、兎の方が一歩早く跳び、俺を押し倒した。

 しこたま頭を壁に打ち、そのまま床に転がる。




 再び、俺はアンドーさんの隣にいた。

 両手に杖を持って寝転んだ状態で。

 

 助かった。

 アンドーさんは、ちゃんと俺を見てくれている。

 飽き出すんじゃないかと心配していたぞ。



「弱い」


 アンドーさんの目が冷ややかだ。


「杖が悪いんじゃないか。俺は当てたぞ」


「杖で叩くって、棍棒じゃないんだから」


 ティナが戻ってきていた。



「ナベ、これ」


 俺は寝たままの状態で杖を取り上げられ、体の横にティナが言及したばかりの棍棒を置かれた。

 準備いいな。


 俺は立ち上がり、それを握る。棍棒みたいに使うなら、いっそのこと、棍棒を使えってことか。


 重い。

 木を荒く削っただけの素朴な逸品だ。

 ゲームだと裸の太りぎみ暴れん坊が持っていそうなやつだ。



「行ってこい」


 アンドーさんが再び、俺と兎を転送させる。




 三度目だ。俺は兎の耳を確認しない。

 たぶん、前と同じところにいる。


 壁際を歩く。気付かない振りだ。

 あいつは俺が気付いたと思ったタイミングで飛び出してくるのだと思う。

 それに、ヤツにとっては、一度の跳ねで俺を襲った方が奇襲的に良いだろう。俺に気付かれたからこそ、兎は二回ジャンプで俺の場所に来た。恐らくあの位置だと二回跳ばないと届かないのだろう。


 それを逆手に取る。先程までより数歩前で耳を見る。

 二回目のジャンプがギリギリ届くのではという位置だ。あくまで俺の目測とそこからの予想に過ぎないけどな。



 兎が跳ねて出てきた。二回目のジャンプをした瞬間に、俺は一歩後ろに下がる。

 それから、棍棒を振り上げた。あれ、軽い。


 兎が着地する。良し。思った通り、ジャンプの伸びはない。

 頭部に棍棒を降り下ろす。狙いの修正がし辛いくらい重い。何故なんだよ。


 が、脳天に当たってくれた。

 固いものを砕く感触が手に伝わる。

 そして、兎の動きが止まる。



 ごめんなさい、兎さん。



 俺は手を下げて、兎の様子を伺っていた。

 突然、兎は顔を上げ、口を開いて俺の喉元を目掛けて飛び込んできた。




 俺はアンドーさんと並んで立っていた。


「いい一撃ではあったな」


 戻ってきていたダンから爽やかなお言葉を頂いた。俺もそう思った渾身の一撃であったのだがな。


「油断するな」


 アンドーさんは誉めてくれない。


「棍棒の限界じゃないか?」


 俺はこのままでは装備:木の棍棒になり得る可能性も頭をよぎり、そう言った。

 端的に言えば、カッコ悪いからな。


「動かなくなっても叩く」


 アンドーさんが腕を何回も上下に振りながらそう言うが、絶対に装備したくないぞ。

 敵が死んでいると確信するまで連打とかきついだろ。ダンが豪快に敵を切り断つ横で、俺は動かない敵の頭や体を叩き続けるってどんな絵だ。

 事情を知らない人が見たら猟奇的過ぎるだろ。



「ナベ、その棍棒は魔具だよ。いい品だよ」


ティナが言う。


「魔具?こっちのナイフと同じく、何か魔力があるのか?」


 前に貰ったナイフの方が(かす)っただけで相手を昏倒されるとか、スマートでかっこいいじゃん。


「うん。でも、棍棒の方は精霊の力が乗ってる感じかな。ナイフとは少し形式が違うかもね。道具としては、その棍棒も使いやすかったでしょ?」


 確かに振り上げと降り下ろしの時に重さが違った。

 あれが精霊の力なのか。

 しかし、残念。棍棒は嫌だ。



「もっと一撃で倒せるのないの?」


 腰のナイフが一番ベストな気もするが、アンドーさんが色々出してくれるなら試したい。


「私のナイフはどう?」


 あの黒いヤツか。

 ナイフというか小刀って外観だった気がする。

 少し和風テイストというか、反りが刀っぽかった。


「いや、要らないかな。何か呪われてそう」


 変な意匠とか付いてたしな。それにナイフは一つで充分だ。


「本当に呪いたくなったわ」


 ティナはそう言いながらも何か出してくれた。

 いつの間にか手に持っているという、いつもの不思議な力か。


 ティナは俺に皮製の鞘に入った刀をくれた。これも棍棒並みに地味な外観だ。茶色の鞘に黒皮の柄。これまた和風な感じの鍔は黒いけど金属かな。


 棍棒をアンドーさんに返し、刀を手にする。

 刀を抜いたら刃がない。


「ナベは非力だから軽い方がいいでしょ?」


 壊れているのかと俺がティナの顔を見たのを察したのだろう、そう言われた。

 うむ、軽い方が良いが、使い方が分からない。


 この形状なら見えない刃が出るんだろうか。

 そうであれば、空想好きな中学生が妄想の中で好みそうな武器の一つだけど、ごめん、俺にとっても凄いカッコいい。


 刀を鞘に納めようと思ったがどうするんだ、これ?刺す部分がないから落ちるんじゃない。

 鞘に持っていくとカチリと磁石のようにくっついた。いいじゃない、これ。カッコいいよ。

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